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【ヅカナビ】進化する『宝塚BOYS』を観て

「宝塚男子部」が残したものは何だったのかを考える

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 

 今回のヅカナビでは宝塚歌劇そのものではないがタカラヅカのことを取り上げた、『宝塚BOYS』という作品のことを取り上げてみようと思う(2018年8〜9月に東京・名古屋・久留米・大阪にて公演)。

 女性だけの劇団ということで知られる宝塚歌劇だが、じつは戦後9年ほど「男子部」の存在があった。この作品は、「男子部」に加入し、いつか宝塚大劇場の舞台に立つことを夢見て奮闘する7人の若者たちの姿を描いている。辻則彦『男たちの宝塚』(神戸新聞総合出版センター)を原案として生まれた群像劇である。

 7人はそれぞれ壮絶な戦争体験を持っている。特攻隊で明日は出陣というときに終戦を迎えた者、満州から奇跡的に生還できた者……「死んでいった仲間たちの分まで生きなければ」との思いがあるだけに、舞台に賭ける夢は切実だった。だが、ご承知のとおり彼らが大劇場の舞台に立つことはない。「夢は叶わないもの」そんな現実を突き付ける話だ。だが、それでも人は生きていかねばならないし、生きてゆける。そんな逞しさも感じさせ、一筋の希望を見いだせる物語でもある。

 じつはこの作品、2007年の初演以来、今回で5度目の再演となる。もはや定番の域に達した作品だ。しかも今回はteam SEAとteam SKY(タカラヅカ的に言うと「海組」と「空組」といったところか)、2チームのダブルキャストで上演された。私はteam SEAのキャストで観たが、より洗練された舞台になっていた印象だ。特に眼を見張ったのがフィナーレで、今や完全にこの作品の「ウリ」の一つになっている。

 だが、タカラヅカファン的には複雑な気分にもさせられる。劇中のセリフで何度も登場するが結局実物は現れない「小林一三」。タカラヅカの創始者であり、ファンがリスペクトしてやまない一三が、「男子部」の夢を潰す存在のようにも見えるからだ。果たして、当時の一三は本当のところどう考えていたのか? 作品の見どころとともに振り返ってみよう。

個性的な7人「どう料理してみせる?」

 再演も5度目ともなると、登場人物のキャラクターがお馴染みのものとなり、役者に対して「あの役をどう料理してくれるのだろう」という楽しみも生まれてくる。

 元は電器屋だが歌が大好きな竹内重雄(SEA/上山竜治・SKY/溝口琢矢 ※以下同順で記載)、宝塚のオーケストラを辞めたが夢が捨てきれない太田川剛(藤岡正明・塩田康平)、旅芸人一座から来た愉快な長谷川好弥(木内健人・富田健太郎)、闇市で幅をきかせていたと称する強面(こわもて)な山田浩二(石井一彰・山口大地)、出征して消息不明の父の帰りを待ちわびる竹田幹夫(百名ヒロキ・川原一馬)、唯一人の現役のダンサーで他のメンバーを見下している風のある星野丈治(東山義久・中塚皓平)。

 そして、「男子部創設」を提案する手紙を小林一三に書いたという張本人・上原金蔵(良知真次/永田崇人)。リーダー役を仰せつかった上原は、個性的なメンバーを取りまとめるのに四苦八苦することになる。

 面白いのは、team SEAにはこの作品の経験者が多く、しかも前とは別の役にキャスティングされていることだ。今回は上山が演じる竹内重雄を2010年には藤岡が、2013年には良知が演じているし、今回は百名が演じる竹田幹夫を2010年には石井が、2013年には上山が演じている。いっぽうのteam SKYはフレッシュな新メンバーが多い。

 7人を温かく見守る寮のおばさん・君原佳枝と、劇団で男子部を担当する池田和也も今回からバトンタッチし、新たな味わいを見せた。山西惇が演じる池田は7人との距離がより近い、兄貴のような存在に見えた。また、タカラヅカに詳しくない人のために念のため言っておくと、佳枝役の愛華みれはタカラヅカの元・花組男役トップスターである。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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