丸山あかね(まるやま・あかね) ライター
1963年、東京生まれ。玉川学園女子短期大学卒業。離婚を機にフリーライターとなる。男性誌、女性誌を問わず、人物インタビュー、ルポ、映画評、書評、エッセイ、本の構成など幅広い分野で執筆している。著書に『江原啓之への質問状』(徳間書店・共著)、『耳と文章力』(講談社)など
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
人生100年時代。西脇義訓さんの「好きを極める」生き方とは(前編)
1999年、フィリップスがグラモフォン、デッカと統合したのを機に退職した西脇さんは、2001年にフィリップス・クラシックスでタッグを組んでいた録音家の福井末憲氏と共に有限会社N&F社を設立。それまでにも増してクラシックの録音・制作に力を注いでいく。
森悠子&長岡京室内アンサンブル、ピアニストの神谷郁代、東京交響楽団、小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ、同水戸室内管弦楽団……。そんな中で巡り合ったチェリスト、故・青木十良氏の言葉が人生の大きな転機となったと振り返る。
「当時、青木さんは80代半ばで、バッハの『無伴奏』をCDにしようと録音に臨んでおられた。『この年齢にしてようやくバッハがわかってきました』と言って、ワッハッハと笑う姿に感銘を受けたものです。そんな青木さんが、ある時にふと『50代、60代で頑張れば、70代,80代で花が咲く』とおっしゃるのを聞いてハッとしたのです。
その時私は50代半ばでした。もう若くないとネガティブだったし、好きな音楽に彩られた人生に満足しなくてはいけないと自分で自分に言い聞かせていました。ところが青木さんは『50代なんてまだ若造だ』と説く。ものすごい説得力を帯びて耳に届いたその言葉が、私には『あなたの人生はこれからが本番だ。夢をあきらめるな』という啓示に感じられました。
青木さんは、ホールの空間を楽器として響かせることの大切さを教えてくれました。以後、自分が理想とする音の響きを探求したいと夢を明確に掲げ、そのためにはどうしたらよいのだろう? と考えるようになったのです」
100歳まで生きる時代なのだから。そう言って、西脇さんは言葉を継いだ。
「定年後は付録の人生だと言うには長すぎます。しかも一度きりの人生なのだから、人はもっと自由に、わがままに生きてよいと思うのです。ただし、それが許されるのは、家族に対する責任を果たした人だけだといえるかもしれません。私が実践していたかどうかは別として(笑)。いずれにしても定年退職してから人生の第二幕が始まるのだととらえ、それを励みに家族のために生きる第一幕を乗り切るというのが正しきあり様だという気がします」
「バイロイトで聞いた理想の響きをつくる! 人生100年時代。西脇義訓さんの『好きを極める』生き方とは(後編)」に続く。次回は西脇さん率いるデア・リング東京オーケストラの画期的な試みについて伺います。24日に「公開」します。
「バイロイトで聞いた理想の響きをつくる! 人生100年時代。西脇義訓さんの『好きを極める』生き方とは(後編)」
※デア・リング東京オーケストラ演奏会 8月31日16時開演 東京・三鷹市芸術文化センター「風のホール」にて。全席自由4800円(第6弾CDつき)。問い合わせはクレオム 03-6804-6526
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