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土居裕子×熊谷真実×伊勢佳世インタビュー/上

こまつ座『マンザナ、わが町』で共演、実力派女優たちの意外な素顔

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大左から、土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世=冨田実布撮影

 9月に上演予定のこまつ座『マンザナ、わが町』に出演する土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世に話を聞いた。『マンザナ、わが町』は、戦時中のアメリカ合衆国・カリフォルニア州のマンザナ強制収容所でたくましく生きる、5人の日系人女性の物語だ。ジャーナリストのソフィア岡崎を土居が、浪曲師のオトメ天津を熊谷が、そして、複雑な生い立ちで物語の鍵を握るサチコ斎藤を伊勢が、それぞれ演じる。

 1993年に初演、2015年に再演。今回は2015年とほぼ同じキャストでの再演となり、9月の東京公演の後には全国公演も予定されている。作品への思いや明るく楽しい稽古場の様子、はたまた「旅巡業に何を持っていくか?」の話まで、意外な素顔と仲良しぶりが伝わる賑やかなインタビューとなった。

一場面に一作品分ぐらいの密度が……

――今日がちょうど稽古開始初日ということで、先ほどからすでに盛り上がっていますが(笑)、久しぶりにお三方で顔を合わせてみて、いかがでしょうか?

(一同笑)

熊谷:待ちに待った感じです。 みんなと会えるのが本当に楽しみで、来てみたらもうセットまで立っていてびっくり。これはすぐに舞台に立てってことかな(笑)。

――また同じ役ができることについては?

熊谷:嬉しかったですね。一場面一場面に一作品分ぐらいの密度があるので、前回のお稽古ではやってもやっても終わらなくて、しゃべってもしゃべっても湧き出てくる、もくもくもくと……。

土居:山のようにセリフが出てきて。

熊谷:通し稽古のときに、「うわ〜、なんて素敵な話なんだろう」と初めて思いました(笑)。

伊勢:私、本番になってから気づきました。

(一同笑)

熊谷:でも、そのぐらい一生懸命すぎて、初日が開けてからも緊張していて、 中日ぐらいからようやく、最後の場面でソフィア(土居)の言うセリフ「黄色は美しい」「黒は美しい」が腑に落ちました。そのくらい余裕がなかったので、リベンジの意味でも再演できるのはありがたいです。

後ろ向きな人が一人もいない話です

拡大左から、土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世=冨田実布撮影

――お三方の役はみんな個性的ですが、それぞれの人物の魅力はどういうところだと思われますか ?

土居:真実さんのオトメさんは 、5人の中で一番辛い思いをしている人だと思います。でも、一番明るくたくましい。生きるってこういうことなのだということを体で教えてくれる。そこに私たち4人は救われていくんです。

熊谷:私は最後にソフィアがもっと辛い収容所に行かなければならなくなった時の、4人の団結力がすごいなと思います。サチコ(伊勢)ともあんなに喧嘩していたのに仲良くなるじゃないですか 。改めて読み返してみて、いや〜ホントに仲間だなあと(笑)。

伊勢:でも、ソフィアも意外とボケボケしていません?(笑) 前回はきっちりした役だと思っていたのですが、改めて読み返すと結構面白いキャラクターですよね。なんだか真面目すぎて面白いというか(笑)。

土居:後ろ向きな人が一人もいないよね。

熊谷:あの過酷な状況の中でそういう人が一人もいないことが、この物語がお客さまを元気にさせてくれる理由のひとつなんじゃないかな。

土居:セリフの一言一言にいろんなものが詰まっていますよね。井上先生の思いがてんこもりというか。

熊谷:先日、新国立劇場で『夢の裂け目』を 拝見したのですが、日常生活のなんでもないこと、たとえばみんなで夕飯を食べて、その後に花火をしていちごミルクを食べる、そういうことが守られ、続いていくようにと井上先生は一貫して祈っておられたのだなと再確認しました。それで『マンザナ、わが町』を読み直したら同じなんですよ。あの収容所の中でも日本人が日常生活をいかにきめ細やかに過ごしていたかということが最後のセリフ「卵焼きの黄色」や「黒豆の黒」で描かれている、そして、それが続きますようにと先生は祈っておられたのだなと発見できたのは嬉しかったです。

土居:あそこでサチコ(伊勢)が「日本人の血を引くすべての人のまほろば」を、「人間の血を引くすべての人のまほろば」に訂正するじゃないですか。それが染みちゃってね。その染みたものをどう表現するかが問題(笑) 。

原題は「おばさんたち」だった!?

拡大土居裕子=冨田実布撮影

――伊勢さん演じるサチコは5人の中でもちょっと異色のバックグラウンドを持つ女性ですが、演じてみていかがですか?

伊勢:前回はいろいろなことを詰め込みすぎちゃって、ガチガチに作ってしまったなと。でも、改めて脚本を読み返してみると、サチコは自分のメモにオトメさんのことを「愛すべき粗忽者」と書いている。ああ、「愛すべき」という表現を使っているんだ、このときサチコはもうオトメさんのことを「愛して」いたのだと気付きました。そういうところも今回もっと出せるといいなと思っています。

熊谷: ああ、いいなあ……。

伊勢:サチコにも温かい部分がある、そういうところも大切にしたいです。

――5人の女性たちに、自分自身を重ね合わせてみたくなりますね。

土居:この作品、元々は 「おばさんたち」という題だったそうですよ(笑)。でも、それでは売れないって(笑)。それで変わったらしいです 。

――そうだったのですか!!

土居:「おばさんたち」というワードのいったい何が井上先生の心に引っかかったのかが気になります。やっぱり、おばさんの持つパワーなのかな? 女は3人集まると姦しいし、5人も集まっちゃうと喧嘩も始まります 。でも、ひとたび問題が起きたらみんなで力を合わせて解決する。それは男の人にはあまりないですよね。女はつるんでなんぼのもので、自分一人が抜きん出ようという名誉欲があまりない。

――そうですね。

熊谷:あの状況だと、たぶん男の人の方が元気がないと思います。 収容所内で自分の部屋にこもりっきりの生活をしているんじゃないかな 。うん、やっぱりおばさんパワーですよ!

伊勢:女性たちは強制収容所でも青春してますものね。 すごいことです。

土居:この作品は5人が一つのところを見て終わります。でも、じつはまだ何も解決されてない。 これからも本当に長く苦しい年月が続いていくわけです。

――ちょうど今年は海外移住150周年にあたり、今回はその記念公演でもありますね。

◆公演情報◆
日本人海外移住150周年記念
こまつ座 第123回公演・紀伊國屋書店提携
『マンザナ、わが町』
2018年9月7日(金)~9月15日(土) 東京・紀伊國屋ホール(新宿東口)
※全国公演あり
公式ホームページ
[スタッフ]
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
[出演]
土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世、北川理恵、吉沢梨絵
〈土居裕子プロフィル〉
愛媛県宇和島出身。宇和島市文化大使。東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。ミュージカル劇団「音楽座」の主演女優として多くの作品で活躍。退団後の主な作品はミュージカル『ショウ・ボート』『サウンド・オブ・ミュージック』、音楽劇『わが町』、こまつ座『紙屋町さくらホテル』など。『ポカホンタス』などアニメや映画の声の吹替えも多数。芸術選奨文部大臣新人賞、読売演劇大賞優秀女優賞を三度受賞。
土居裕子オフィシャルサイト
〈熊谷真実プロフィル〉
1978年、『サロメ』のオーディションに合格して芸能界入りし、同年ドラマデビュー。1979年NHK朝の連続テレビ小説『マー姉ちゃん』の主役に抜擢され、エランドール賞を受賞。『俺たちの交響楽』(1979年)でスクリーンデビュー。その後、映画、ドラマ、演劇さらにバラエティ番組などで幅広く活躍している。2016年『マンザナ、わが町』で紀伊国屋演劇賞・読売演劇賞受賞。
熊谷真実オフィシャルサイト
〈伊勢佳世プロフィル〉
大学在学中に劇団俳優座養成所に入所し、芝居の基礎を学ぶ。2008 年より前川知大主宰のイキウメに参加、『太陽』『聖地X』『散歩する侵略者』など、ほぼ全ての劇団公演に出演する・2016年同劇団を退団後は、外部公演にも多数出演。近年の主な出演舞台に『父と暮せば』『アンチゴーヌ』『CRIMES OF THE HEART-心の罪』『マリアの首』『令嬢ジュリー』『紙屋町さくらホテル』など。
伊勢佳世オフィシャルサイト

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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