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『手をなくした少女』心の奥底まで表現した線の色

セバスチャン・ローデンバック監督は語る

叶精二 映像研究家、亜細亜大学・東京工学院講師

――レイアウトとコンポジット(作画素材を合成して画面を完成させる工程。実写映画の「撮影」に相当)について伺います。キャラクターの演技がメインのシーン、特に会話のシーンはほとんどがFix(カメラを定点に据えて動かさないこと)です。一方、背景がメインとなるシーンにはカメラワークが多用されています。背景の中を移動する人物をカメラが追いかけるという設計は少ないという印象です。

ローデンバック おっしゃる通りです。前提として、すべてのカットで動きを作るということを考えました。人物が動く時はカメラを動かさない、動かない背景を写す時は逆にカメラを動かすという考え方です。動く人物をカメラが追いかけると、この作品のような線描中心だとフリッキング(明滅)が起きてしまい、動きが認識しづらい。それを避けたという技術的な理由もあります。それでも注意しながらいくつかのシーンで試みていますが。

――人物の演技中心のシーンのカメラは半身が写るくらいのミドルショット、背景または背景の中の人物はロングショットが多用されていますね。

ローデンバック ええ、人物の顔のアップはほとんど撮っていません。王子が少女を驚かせる出会いのシーンや出産のシーンくらいですね。その他はもう少し距離をとって人物を撮っています。背景にロングショットを多用したのは、自然に囲まれた人物を描きたいという意図がありました。

© Les Films Sauvages – 2016拡大© Les Films Sauvages – 2016

――全体にカメラワークもレイアウトも抑制的です。その中で、ラストの下から上にカメラがティルトアップ(上昇)するカットがとても強い印象を刻みます。

ローデンバック よく御覧になっていますね! この作品の場合は、映像的な直感に従ったと申しますか、実写映画の撮影現場で役者のフレームイン・フレームアウトを指示しているような気分で作っていたのです。一般的なアニメーション制作では、カメラワークは作画段階の前に決まっているものです。しかし、私の場合はまず作画をしてしまってから、編集とコンポジットの段階でカメラワークを決めています。コンポジットの段階で、色を決めたりカメラを動かしたりといった作業の全てをほぼ同時にやっていました。台詞もその時に決めていたのです。そして、コンポジットでうまくいかない時は、作画に戻ってリテイクをするといった具合に様々な工程を行ったり来たりしていました。私にとって作画とコンポジットは同じくらい重要なものです。コンポジットはリズムを決める作業でもあるのです。

人間は誰しも同じ色であり続けることは出来ない

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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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