勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
トランスジェンダー受け入れで進む「女子校2.0」化
前回の記事『東京医科大が“感染”したブラック労働と女性差別――女子点数の減点は大震災級の問題。政治やメディアも甘すぎる』では、東京医科大学の点数改ざん問題について論じました。
東京医科大学が批判される一方でお茶の水女子大学は2018年7月に、戸籍上が男性でも自身の性別が女性だと認識しているトランスジェンダーの学生を2020年度から受け入れる方針を発表し、称賛を受けています。
近年、アメリカ等の大学でも2015年ごろからトランスジェンダー受け入れが進んでいますが、女子大学で国内最難関と言われるお茶の水女子大学がわずか3年後にその流れに追随したことは、「女子校2.0」とも言える非常に大きな一歩だと思います。
でも、お茶の水女子大学はなぜ共学化ではなく、トランスジェンダー受け入れという方法を取ったのでしょうか? 実際、近年は共学校のほうが人気を集めているため、高等学校を中心に女子校から共学校へと転換する学校は少なくありません。その中で、女子校であることを保つことについて、室伏きみ子学長は会見の中で以下のように述べています。
女性たちが差別や偏見を受けずに幸せに暮らせる社会を作るために、大学という学びの場で、自らの価値を認識し、社会に貢献するという確信を持って前進する精神をはぐくむ必要があると考える。それが実現できるのは、女性が旧来の役割意識などの、無意識の偏見、そういったものから解放されて自由に活躍できる女子大学だろうと考えている。
つまり、女子学生を性別役割から解放し、「女子学生」を「女子学生」ではなく、単なる「学生」にすることの出来る環境が女子大学という仕組みだと説いているわけです。社会において女性差別が残り続ける限り、女性性をエンパワーメントするというミッションを遂行するためには、女子校というある種の「純粋培養装置」が欠かせないということでしょう。
このような新しい女子大学のアイデンティティはアメリカを中心に広まっています。アメリカでは女子大学は4年制大学の約1.3%に過ぎないのにもかかわらず、伝統的な難関女子大学「セブンシスターズ」のうち、現在も5校が共学化を行っていません。それも「女性がセンターに置かれる経験をする空間が必要である」という考えが根底にあるからです。
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