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#MeTooって恋愛なの?

ガルシア・マルケス『エレンディラ』を内田春菊さんと共に読む

前田礼 コーディネーター/アートフロントギャラリー

影響を受けた本について語る内田春菊さん拡大影響を受けた本について語る内田春菊さん

 内田さんは依頼のメールをお送りすると、すぐに快諾してくださった。

 内田さんが選ばれた一冊は、ガルシア・マルケスの『エレンディラ』。メールには、「<少女>という設定にはあまり思い入れのない私ですが、娘や学生たちによく勧める本であれば」と書き添えてあった。

 内田さんはマルケスの代表作『百年の孤独』に20歳の頃出会い、それからすっかりその作品世界に夢中になったそうだ。当時、内田さんはホステスをしていて、同伴したお客さんに「本を読むのが好きだ」と言った時に薦められたという。「そんな本との出会い方も嬉しかったし、読み難いといわれる分厚い一冊の本を全部読み切れたのも嬉しかった」と内田さんは語った。

 実際、内田さんはものすごい読書家だ。読書会では、「内田春菊に影響を与えた10冊」もご紹介いただいたが、文学から医学書までその幅はとても広く、その多くが人に勧められて出会った本だった。本は人を介して伝わっていく。

苛酷な少女の成長譚

 「エレンディラ」は、正式なタイトルを「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」という。『百年の孤独』から5年後に書かれたこの中編は、少女エレンディラの成長譚である。

 白鯨のような体躯の祖母と砂漠の邸宅に暮す14歳のエレンディラは、女中のようにこき使われ、ある晩、過労と睡眠不足で火事を出し、屋敷が全焼してしまう。無一物になった祖母は、エレンディラに売春をさせることで、膨大な損害を償わせようとする。強欲な祖母に連れられ、行く先々でテントを広げ、春をひさぐエレンディラの旅が始まる。

 美しいエレンディラの噂は遠くまで拡がり、多くの客が訪れる。旅の一行はまるで隊商のようで、行く先々で見世物小屋が出たりする。マルケスが描くその光景は実に幻想的で、美しく、時に滑稽で、過剰だ。

 とにかく数字が半端ない。実はエレンディラは、『百年の孤独』の主要人物アウレリョノ・ブエンディア大佐が若き日に恋におち、結婚を決意する娼婦として登場しているのだが(マルケスの個々の作品は、どこかで連環していることが多い)、「彼はその日64人目の客だった」とあるのだ。

 こんな惨い目にあいながらも、エレンディラは祖母に対して従順だ。一度は教会に保護され、修道院で安寧を得るが、結局祖母のもとに戻ることを選んでしまう。それは「生まれた時からかけられた呪術」のように、虐待にあった子供が母親から離れられない現象と似ている。

 小説ではエレンディラの内面はほとんど語られない。しかし少しずつ、彼女は学び、変わっていく。そして彼女に恋する美少年をけしかけて、祖母を殺させ、彼を残したまま、飛び出していくのだ。

 そのラストが素晴らしい。

彼女は、風に逆らいながら鹿よりも速く駆けていた。この世の者のいかなる声にも彼女を引きとめる力はなかった。彼女は後ろを振り向かずに、熱気の立ちのぼる塩湖や滑石の火口、眠っているような水上の集落などを駆け抜けていった。やがて自然の知恵に満ちあふれた海は尽きて、砂漠が始まった。それでも金の延べ棒のチョッキを抱いた彼女は、荒れくるう風や永遠に変わらない落日の彼方をめざして走りつづけた。その後の消息は杳としてわからない。彼女の不運の証しとなるものもなにひとつ残っていない。

「エレンディラ」と「ファザーファッカー」

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筆者

前田礼

前田礼(まえだ・れい) コーディネーター/アートフロントギャラリー

東京大学大学院総合文化研究科博士課程(フランス語圏カリブ海文学専攻)在学中より「アパルトヘイト否(ノン)!国際美術展」事務局で活動。アートフロントギャラリー勤務。クラブヒルサイド・コーディネーター。市原湖畔美術館館長代理。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「ヨーロッパ・アジア・パシフィック建築の新潮流」等の展覧会やプロジェクトに関わる。『代官山ヒルサイドテラス通信』企画編集。著書に『ヒルサイドテラス物語―朝倉家と代官山のまちづくり』(現代企画室)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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