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#MeTooって恋愛なの?

ガルシア・マルケス『エレンディラ』を内田春菊さんと共に読む

前田礼 コーディネーター/アートフロントギャラリー

『エレンディラ』と『ファザーファッカー』拡大『エレンディラ』と『ファザーファッカー』

 「エレンディラ」を読んだとき、私は内田さんの小説『ファザーファッカー』(文藝春秋刊、今秋再版予定)を思った。

 『ファザーファッカー』は、内田さんが34歳の時に発表した初の小説である。実母の協力のもと養父による性的虐待に遇い、少女期をもたないまま16歳で家を出るまでの内田さんの体験を基にしている。発表されるや、70万部を超えるベストセラーとなり、直木賞候補にも選ばれ、ドゥマゴ文学賞を受賞、映画化もされた。

 とても重い自伝的小説だが、その語り口は実に淡々として、私たちはそこに書かれてあることに驚愕しながらも、それを受け容れ、一気に読めてしまうのだ。

 内田さんにとって、『ファザーファッカー』は「遺書」のようなものだったという。実母、家族への訣別の書。それを書き上げるのに、内田さんは27歳から7年の歳月を要した。書くことは、過去の辛い体験を再体験することであり、どれほど大変なことであったかと思う。そして、24歳で漫画家としてデビューを果たし、「南くんの恋人」などヒット作を連発、すでに世に名の出ていた内田さんにとって、相当の覚悟と勇気を要することだったろう。

 でも、同じような苦しみを抱えている人たちがいるはずだ、と内田さんは小説を発表した。1993年、現在の#Me Tooにさきがけること四半世紀も前のことである。

「セクハラ」と「恋愛」の境

参加者に問いかける内田春菊さん(正面左)拡大参加者に問いかける内田春菊さん(正面左)

 私たちの読書会は、途中、本やゲストにちなんだおむすびをいただきながらの休憩をはさんで、後半はゲストとの質疑応答や参加者とのワークショップを行う。

 「今回も来場者が参加できるようなプログラムを」という私たちのリクエストに対し、内田さんの提案は、「買春を恋と思う男、またはセクハラを恋と思い込む男について、自分が体験したこと、あるいは聞いた話を書いてください。思い当たることがなければ白紙で」というものだった。

 「エレンディラ」の中で、買春を「恋」と表現するシーンがある。

「恋は、飯と同じくらい大切なもんだよ」

 内田さんは参加者に問いかける。果たして、「買春」という圧倒的な力関係において、恋愛は成立するのだろうか。セクハラは恋愛感情、好意から発しているから、許されるのだろうか。

 「養父の行為は、私にとっては苦痛でしかなく、本当に嫌だった。でも、振り返ると、養父は、私に恋をしていたのではないか、と思うのです」と内田さんは語った。

 いわゆるセクハラの問題が面倒なのは、「する側」に悪意がない、その自覚がないことが多いからだ。しかし、それによって「される側」が受けた心や体の傷は深く残る。

 一方、「セクハラされるのは、女性として魅力があるからだ」と言われることも、逆手にとって「女を武器」にすることもある。「女子力」も、そのヴァリエーションであると言えるかもしれない。

#Me Tooが共感をもって拡がったわけ

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筆者

前田礼

前田礼(まえだ・れい) コーディネーター/アートフロントギャラリー

東京大学大学院総合文化研究科博士課程(フランス語圏カリブ海文学専攻)在学中より「アパルトヘイト否(ノン)!国際美術展」事務局で活動。アートフロントギャラリー勤務。クラブヒルサイド・コーディネーター。市原湖畔美術館館長代理。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「ヨーロッパ・アジア・パシフィック建築の新潮流」等の展覧会やプロジェクトに関わる。『代官山ヒルサイドテラス通信』企画編集。著書に『ヒルサイドテラス物語―朝倉家と代官山のまちづくり』(現代企画室)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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