青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト
1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。
語るとっかかりがないならワイドショーもやめとけよ
大坂なおみはすごいなあ。
オリンピックとかワールドカップで日本人や日本チームが出たときはほぼ考えなしに相手チームを応援している私だが、大坂なおみが全米オープンの決勝進出のニュースを見たときには「優勝してほしい」と思った。かわいいので。
けど相手がセリーナ・ウイリアムズと聞いた瞬間「ムリだ」となってそれ以降忘れていたから、翌日テレビつけて優勝したと聞いたときはびっくりした。
(この優勝について、最初にテレビのニュースで映されたのはセリーナがラケットへし折った場面と、表彰式でなおみの肩を抱き寄せて「もうブーイングはおしまいよ!」とか言って歓声あびてる場面であったが、試合中からの詳細見てたらセリーナひでえな。試合中の抗議は頭に血が上ってたからと大目に見たとしても、表彰式会場に自分のファンが大量にいるのをわかった上で、なおみ優勝にブーイングするように持ってった(ように見えたぞ)挙げ句、「もうやめましょう!」で自分は心の広いイイ人演出。テレビでは「抱き寄せてなおみを讃えてる」ように見える部分だけ切り取られてるもんで「王者はさすが」とか思っちゃったではないか。でも抱き寄せ方とかその時の表情とか声とか、見事なぐらい巧みなんだ。巧みだからさらにひどいんだけど。負けて腹立ってるとはいえこれはない。で、この巧みさと嫌らしさが、実にアメリカっぽい)
優勝したとなるといきなりテレビの食いつきが今までとはちがう。
根室のおじいちゃんを何度テレビで見たか。このおじいちゃんがいい味の人で、テレビ慣れなどしていないが別にテレビを大層なもんだとも思っておらず常に慌てず騒がずマイペース、でも確実に面白いことは言う。子供の頃はよく泣いとったで……どんな時にって? いつもだよ!とか、寿司が好きで30貫食ってたよ……いやトロだけで30貫で他のを20貫ぐらい食ったよ!とか。
しかし、テレビとしても「どうしたらいいのか」と迷っているのがありありわかる。なおみはそもそも日本に住んでないし、日本語もネイティブじゃない。お母さんもあんまり出てこないし、お父さんのほうに話を聞きに行くという考えもあまりなさそうである(ハイチの親戚の家まで行って好物のハイチ料理とか聞いてみたいのだが)。
となると根室のおじいちゃんに聞きにいくか、「大坂なおみ」って名前の日本人らしさにすがるか。今井アレクサンデルとか鈴木エドワードとかジェームズ三木とかいう名前でなくてよかった、とテレビ局は思ってるんじゃなかろうか。そして大坂なおみの「いかにも日本人らしいエピソード」「日本に関わりのあるエピソード」でつなぐしかない。
「(勝っちゃって)ごめんなさい」「うつむいて静かに涙を流す」という「実は日本人らしい」みたいなやつ。「なおみ節」とかいうやつ。「靭(うつぼ)公園のテニスコートで練習してた」「フスマをはずしてネットがわりに練習」とかの「日本ネタ」。
この、後者のほうはまあいいとして、前者はどうかと思うよ。
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