思いやりが「掟」の『卓球温泉』と、卓球の“効用”
2018年09月21日
「卓球映画」から卓球の“楽しみの流儀”を語る――異性間関係の『ミックス。』、同性同士の結束を描いた『ピンポン』
前稿で紹介した『ミックス。』よりも20年前、すでにヘテロソーシャル(異性間の関係)な卓球映画が存在していたことを知る人は多くないだろう。松坂慶子と蟹江敬三が夫婦を演じた『卓球温泉』(監督:山川元、1998年)。このエッセイの文脈では間違いなく傑作だが、世の中の多くの人にとってはやや不思議な作品(珍品の部類?)に映るかもしれない。
中年の専業主婦、園子(松坂)は、ラジオ番組でDJのかなえ(牧瀬里穂)にたきつけられて家出を決行する。行き先はかつて夫の哲郎(蟹江)と訪れた山あいの竜宮温泉。すっかり寂れた温泉街を見て驚くが、ひょんなことから卓球による町おこしにかかわる……。
当時は荒唐無稽だったはずのシナリオは、「失われた20年」を経た我々にとって、奇妙なほど違和感がない。地方の斜陽観光地がこの間、インバウンド客の呼び込みに死に物狂いの努力を重ねてきたことを知っているからだ。
園子は老舗旅館の2代目、公平(山中聡)と知り合う。かつては繁盛した古ぼけた卓球場で、園子が公平と球を打ち合うシーンが印象深い。学生時代に卓球をやっていたらしい公平は、つい甘い球を強打してしまう。すると園子は彼をこんなふうにたしなめる。
「相手が打てないような球を打ってはいけません!」
公平と園子は熱心に卓球の効能を説き、迷惑顔だった町の旦那衆も次第に協力的になっていく。長老である公平の父(桜井センリ)は、ついに竜宮温泉を「卓球温泉」に改名する。
町のあちこちから卓球台がかき集められ、廃校で大会が開かれることになった。急遽企画された客寄せの「ねるとん卓球」は、浴衣でラリーをできるだけ長く続ける温泉卓球方式。
こうして園子の提示した「掟」でゲームが始まる頃、妻の居場所を突き止めた夫哲郎と公平の元許嫁かなえが会場に現れる。エンディングでは、たくさんのカップルの中で、園子と哲郎、公平とかなえが汗だくになって“思いやりラリー”を続けている……。
もちろんこれら3本の他にも面白い卓球映画はいくつかある。元天才卓球少年が裏社会に戦いを挑む米国製ピンポン・カンフームービー『燃えよ!ピンポン』(2007)や、世界卓球女子団体戦で南北朝鮮統一チームが優勝した実話を元にした韓国映画『ハナ~奇跡の46日間~』(2012)は、卓球に縁のない方でも、DVDを借りて観る価値が十分ある。
でも、『ミックス。』『ピンポン』『卓球温泉』を選んだのは、この3本が卓球の“効用”を
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