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人騒がせな名画にひそむ真実

高瀨毅 ノンフィクション作家・ジャーナリスト

 「これ、アントン・ヴァン・ダイクですね。フランドル(現ベルギー)の画家です。オランダの絵の作風との違いがわかりますね。フランドルの画家は理想的に描くんです。だからこの婦人、ここまで美しかったかどうかわかりませんよ」

 西洋美術史家、木村泰司の早口で軽妙な解説に笑いが起きた。

 東京都八王子市にある東京富士美術館。9月13日、クラブツーリズム主催の西洋絵画観賞のツアーが行われ、約30人が参加した。木村の説明を聞き逃すまいと、みな熱心にメモを取っている。

東京富士美術館の西洋絵画観賞ツアーで絵の解説をする木村泰司さん=2018年9月13日。筆者撮影拡大東京富士美術館の西洋絵画観賞ツアーで絵の解説をする木村泰司さん=2018年9月13日。筆者撮影

西洋美術史に高まる関心

 西洋美術史に日本人の関心が高まっている。最近、そんな話を聞くようになった。ことに企業人向けセミナーや、海外でビジネスをする機会の多い人たち向けの講座が活況だという。この日のツアーも、クラブツーリズムが主催する木村の西洋美術史講座の一環だ。

 木村の講座に、数えきれないぐらい参加しているという埼玉県から参加した50代後半の男性はこう話す。

 「木村先生がよく言われるのは、絵は、感覚、感性で見るのではなく、『読む』ということ。美術にはもともと関心はあったのですが、西洋美術の中には、歴史や文学も入っていて、講座を受けて西洋美術についての認識が全く変わってしまいました。美術は学校教育の中で主要科目ではないけれど、実はとても大事な科目なのではないかと思うようになりました」

 「これまで西洋美術の歴史が分からなかったのですが、先生の講座で、絵の中にギリシャ神話などの古典や、物語や歴史がいっぱいあることに気づかせていただいています。ものすごく世界史の勉強になります」

 そう語るのは、神奈川県横浜市から来た年輩の女性だ。絵の中に描かれている様々な物が、記号として意味を持っている。つまり絵の中に「約束事」があり、それらを知らなければ西洋美術の理解は深まらないのだという。

 日本の学校の美術教育では、そういうことはまず教わらない。画風の違いや描き方の違い、あるいは、バロックや古典主義、ロココ、印象派など、いろいろな時代があることぐらいは分かる。しかし西洋美術史全体を俯瞰し、時代に応じて絵画がどのような変遷を経てきたのか。絵の中にどんな社会的メッセージが込められているのかなどをわかる人は、ほんの少数だろう。また、そういうことを知らなくても、これまで社会生活に困ることはなかった。それは美術愛好家の世界の中の話だったからだ。

 しかし、西洋美術の基本的な知識がなければ、仕事にも影響することが出てきたという。大きな理由はグローバル化が進んだことだ。

欧米人と仕事をする上で身につけるべき「教養」

 


筆者

高瀨毅

高瀨毅(たかせ・つよし) ノンフィクション作家・ジャーナリスト

1955年。長崎市生まれ。明治大卒。ニッポン放送記者、ディレクターを経て独立。『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』『ブラボー 隠されたビキニ水爆実験の真実』など歴史や核問題などの著作のほか、AERAの「現代の肖像」で人物ドキュメントを20年以上執筆。ラジオ、テレビのコメンテーターなどとしても活躍。