2018年09月26日
アーティストが進化し続ける存在である以上、その活動はリアルタイムで広く発信されたほうがいい。なぜなら、なんらかの“事情”が介在することによって閉鎖性が生まれてしまうと、必然的にその作品はエンドユーザーへとスムースに届きにくくなるからだ。
すると、おそらく(特にそのアーティストの全盛期をリアルタイムで体験してこなかった若い世代を中心に)「そのアーティストのことを知らない」層が生まれることになるだろう。たとえ、それが過去に一斉を風靡(ふうび)した偉人であったとしても、だ。
新しい情報がほとんど入ってこないのだから、当然の話である。かつては誰もが知っていたような人であったとしても、その知名度は短期間のうちに薄まっていくことになる可能性があるのだ。
いい例が、2016年4月21日に57歳の若さで世を去ったプリンスだ。グラミー賞を7回受賞し、12枚のプラチナ・アルバム(100万枚以上のセールス)と30曲のトップ40シングルを生み出した、音楽界の最重要人物。アルバム累計1億2000万枚以上のセールス記録を持ち、いまなお多くのアーティストやファンから支持される、文字どおりのレジェンドである。
ところが1995年以降、彼の知名度は80年代にくらべれば限定的なものになった。とはいえ、才能が枯渇したというような意味ではない。後述するように「ある事情」が絡んでいるのだ。
しかし、デビューから40周年のアニバーサリー・イヤーであり、存命であれば60歳を迎える節目でもある今年、そんな状況が一気に改善されることになる。1995年から2010年時期に残された300曲以上が、入手困難だったレア音源も含めて一挙に配信解禁になったのだ。
1978年にアルバム『For You』でデビューしたプリンスが大きくブレイクしたのは、1980年代に入ってからのことである。
もちろん『For You』以降にも、『Prince』(1979)、『Dirty Mind』(1980)、『Controversy』(1981)と優れた作品をリリースし、それらの完成度の高さは敏感な音楽ファンの間で話題を呼んだ。『Prince』からシングル・カットされた“I Wanna Be Your Lover”はR&Bチャートで1位を記録してもいる。しかし一般的な認知度という意味では、まだまだ「玄人好みのアーティスト」だったということだ。
なお、のちにプリンスは「マイケル・ジャクソンのライバル」的な扱いを受けることになるが、この時期はモータウン・レーベルの異端児、リック・ジェイムスと比較されることが多かったように記憶している。
それはともかく、プリンスが本格的にブレイクしたのは、“1999”“Little Red Corvette”“Delirious”“Let's Pretend We're Married”を大ヒットさせた1982年リリースの大作『1999』からだ。
次いで1984年には、“When Doves Cry”“Let's Go Crazy”“Purple Rain”“I Would Die 4 U”“Take Me With U”を生んだ『Purple Rain』が誕生している。
しかしそれでも、プリンスがこの時点で、ソウル、ファンク、ロック、ジャズなどさまざまな音楽からの影響をまとめ上げた音楽性を完全に確立したことだけは理解できた。
だから「苦手」と言いつつ、以後もほぼ1年に1枚というハイペースで新作が出るたびに聴き続けることになったのだった。好き嫌いは別としても、スタイルを次々と変化させるさまは興味深かったからだ。
つまり彼は、ジャンルもスタイルも、それどころか聴く側の「好き嫌い」すら超越した存在だった。
ところが1995年の『Gold Experience』から2010年の『20Ten』までの23作品に関しては、いささか事情が違ってくる。というのも、これらはすべてプリンス本人が管轄していたからである。つまり楽曲の権利については大手レーベルと契約せず、自主レーベル、あるいは配給のみ大手レーベルに依頼するなどして作品を発表していたのだ。
しかも米ストリーミングサイトTIDALと独占契約して自身の音源をストリーミング配信していたため、米国以外の地域では音源をデジタルで入手したりストリーミングで聴くことができなかった。そのため必然的に、1980年代のような「誰でも彼のことを知っている」というような状況にはならなかったのである。
もちろんそれは、プリンス本人が生前に米TIDALとしか契約を結ばなかったためである。ただそれが原因で実質的に『1999』や『Purple Rain』の時代のように大々的に公開される機会が減ったのは事実。だからこそ、ちょっと残念に感じていたのである。
それに、プリンスが古巣のワーナー・ミュージックを離れた1995年以降には、1980年代とはまた違った創造性を発揮した作品が数多くリリースされている。どの作品を聴いても、彼自身がさまざまな実験を楽しんでいることが手に取るようにわかるのだ。
だから、もっと気軽に聴ける
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