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樹木希林は主役を食ってしまう脇役女優だった

香取俊介 脚本家、ノンフィクション作家

稀代の名脇役女優だった樹木希林さん(1943―2018)稀代の名脇役女優だった樹木希林さん(1943―2018)

「目次だけの本なら、出してもいいかな」

 1年半ほど前になるだろうか、某版元から樹木希林さんの「語録」のようなものを出したいとの要望があり、私が希林さん宅にファックスを入れた。折り返し電話があった。「せっかくのお話だけど、もう欲もなにもないのよ。枯れススキみたいに自然に朽ちていくのがいいの。だから本を出すなんて気になれないの」。

 希林さんが全身を癌で冒されていることは、もちろん知っていたので、無理をいえなかった。ただ、希林さんは興がのったのか、それから小1時間、四方山話をされた。本のことを蒸し返すと、「目次だけの本なら、いつか出してもいいかな」と、まさに希林さんならではのユニークな答え。「それは面白い。興味深いし、ユニークなものになりますね」と応じたものの、目次だけではパンフレットにしかならないし、実現は難しいと思って電話を切った。

「チョイ役」が大好きな、「ちょっと危ない」女優

2018042018年4月
 突然の訃報に接して、希林さんが書いたかもしれない「目次だけの本」についてあれこれ考えた。

 そのときどきの「語録」であったら、希林さんが様々な新聞、雑誌、テレビ等で発言されたものを集めれば、そのまま本になる。希林さんは、世間常識という狭い思考のしばりから解放されているというか、独自の思考回路が組み込まれているようで、存在自体が実に面白い。

 たとえば「チョイ役」について。希林さんはチョイ役に何度も出ると主役の何倍ものギャラがもらえるので、チョイ役が大好き、と他の女優ではなかなかいえないことをさらっと口にする。

 そればかりではない。

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