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【追悼・再掲】「舞台人・志村けん」が見せる「魂」とは

ペリー荻野 時代劇研究家

 志村の「頑固」と「一途」は、3部の芝居「一姫二太郎三かぼちゃ」にもよく出ている。

 実家の畑を守りながら、老いた両親や亡き兄の未亡人(浅香唯)と暮らす三郎(志村けん)は、母の喜寿の祝いのため、都会から久しぶりに帰ってきた兄弟たちからバカにされ、仲間外れにされて悔しい思いをする。しかし、出世したはずの兄弟たちにはそれぞれ事情があり……という物語。昭和の喜劇王、藤山寛美が主演して人気を博した松竹新喜劇の名作だ。

 三郎は、憎まれ口やとぼけた表情で笑いをとりながらも、心優しい。自分勝手な兄弟の本音、都会と田舎の違い、老いゆく両親への思いなど、時代が変わっても、家族の問題は変わることがないなあとしみじみ思う。会場のあちこちからすすり泣きが聞こえてきた。

 おバカっぽく見える人物(三郎)が、真実を鋭く突き(見栄を張る虚しさ)、一番大事なことを知っている(家族は助け合うべき)という構図は、バカ殿様やひとみ婆さんや無邪気な小学生のコントに通じる。「志村魂」では、過去にも、「人生双六」「初午(はつうま)の日に」「先づ健康」といった松竹新喜劇の作品を取り上げている。志村けんの藤山寛美への強い思いの表れだろう。

 松竹新喜劇作品については、三代目・渋谷天外を中心にした劇団で、藤山寛美の孫・藤山扇治郎も多くの先輩たちとともに奮闘している。また、劇場公演5000回を突破した大座長・五木ひろしが坂本冬美と今年も「紺屋と高尾」を上演、積極的に演目に取り入れている。昭和の喜劇は、平成も終わろうという今、さまざまな舞台人に引き継がれているのだ。劇団ごとに持ち味が違うのは当然だが、志村の場合、本番の最中にたびたびアドリブを放ち、共演者から「自由過ぎる」「頼むから台本通りにして」などと言われる。役とは違うところで“クセ者っぽさ”を漂わせるのが特徴のひとつだ。志村は、自分の座組にしかできない笑いを織り込んだ「喜劇」をこれからも追及していくことだろう。

「役者」になるのは舞台だけ

 興味深いのは、これだけ笑わせ、泣かせる志村が、「役者」の顔になるのは、この舞台だけということだ。これまで俳優として出演した作品は、1999年の映画『鉄道員(ぽっぽや)』ただ1本。出演を決めたのは主演の高倉健本人から留守番電話に依頼のメッセージが入っていたからだというのは、有名な話である。

 今年の正月には、NHKで実に60分という長尺のドラマ仕立てのコント「志村けんin探偵佐平60歳」に出演。定年退職した元警視庁の経理マンが念願の探偵になり、誘拐事件捜査で迷走するという内容だった。これはもうりっぱなドラマでは?という気がしないでもなかったが、あくまでもコント作品である。

 志村けんは、カツラと衣装をつけてコントをする。芝居は舞台公演の松竹新喜劇のみ。この「頑固」と「一途」が、志村の「魂」なのだ。その魂を確認するためだけにでも、「志村魂」を観る価値はある。

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筆者

ペリー荻野

ペリー荻野(ぺりー・おぎの) 時代劇研究家

1962年、愛知県生まれ。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」のプロデュースや、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど時代劇関連の企画も手がける。著書に『テレビの荒野を歩いた人たち』『バトル式歴史偉人伝』(ともに新潮社)など多数。『時代劇を見れば、日本史はかなり理解できる(仮)』(共著、徳間書店)が刊行予定

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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