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「半分、青い。」は「計算、高い。」と結論した心

矢部万紀子 コラムニスト

「半分、青い。」「半分、青い。」のNHK公式サイトより

裕子が死んで泣いちゃいけない

 9月27日(木)、「半分、青い。」最終回まであと2日というタイミング。「あさイチ」冒頭、近江友里恵アナウンサーが涙ぐんでいた。シーンとした空気に博多大吉さんが「さ、カープ、優勝しましたね」と言い、近江さんは「それですか」と言って泣き笑いになっていた。

 その日、ヒロイン楡野鈴愛(永野芽郁)の親友・裕子(清野菜名)の死が明らかになった。2011年3月11日、仙台市の海辺の病院に看護師として勤務していた裕子。しばらく安否不明だったが、助からなかったのだ。

 朝ドラ「半分、青い。」と新生「あさイチ」は同じ4月2日に始まった。午前8時スタートの朝ドラが終わって、8時15分からが「あさイチ」。有働由美子アナウンサーと井ノ原快彦さんが発明(?)した「朝ドラ受け」は、新生「あさイチ」にも受け継がれ、最終回直前に近江さんが泣いた。普通っぽさが彼女の魅力だから、「やっぱり素直でいい子だなあ」と思う。

 が、次の瞬間、こう思い直す。

 近江さん、ダメ、泣いちゃダメ。ここは怒らなきゃ、裕子の死を「まとめ」に使うなって、怒らなきゃ。

 実はこの日、私も少し、泣いてしまった。泣いて、即、反省した。泣くな、裕子を死なせて泣かそうとしていることは丸分かりじゃないか。そう己を戒めた。

朝ドラの王道+新しさ

 「半分、青い。」=「計算、高い。」

 という話を、書かざるを得ない。最終週で、心が決まった。

 その話の前に「あさイチ」の続きをもう少し。脚本の北川悦吏子さん、出ていた。最終週直前の9月21日に。それより3カ月近く前の6月、鈴愛が幼なじみの律(佐藤健)にプロポーズされて断った。これを博多華丸さんが、「プロポーズのオフサイド」と受けた。即、北川さんが「華丸さんと直接話したい」とツイッターで反応。そういう経緯を経ての出演だった。

 華丸さんとNHKの人、2人と相対した北川さん。あのプロポーズは突然ではないのだと力説し、「予定調和でない人生を描いた」と全体を振り返り、次週からのラスト6回を「人がどう生きるか試される週」と語った。能弁だった。

 最終回直前、ドラマの主人公や相手役がバラエティー番組に出演し、宣伝するというのはよくあること。脚本家がそれを自ら担う。前向き。

 と思うが、それにしても北川さん、すごく「半分、青い。」を語っていた。紙媒体にネットに、インタビューを受けまくっていた。

 それらを読んでの「半分、青い。」の基礎知識。

 北川さん、2012年に聴神経腫瘍で左耳を失聴→雨の日に傘を差す→左側だけ降ってないみたい→ドラマになると発想→「半分、青い。」というタイトルも浮かぶ→企画をNHKに持ち込む→実現。

 だから障害があっても、普通に堂々としている主人公を描くのだ、と語っていた。理解。

 朝ドラを書くのだから、家族は必ず書いてくれと言われたとも語っていた。ホームドラマを書くのは恥ずかしい。それまでどこかに、そういう意識があったとも。だがミッションを与えられると、ちゃんと応えるのが北川さんだ。

 「半分、青い。」の場合、子役時代から東京に出るまでの故郷・岐阜編が純粋な「ホームドラマ」だったと思う。鈴愛は東京で結婚して子どもも産むが、そこに至る頃にはだいぶブッとんだドラマになっていて「ホームドラマ」ではなかった。

 その点、両親と祖父母、弟がいる実家「つくし食堂」時代は、「さすが北川さん、よく研究しているなあ」と感心する展開だった。朝ドラの王道をきちんと踏まえ、そこに新しさを加えていたからだ。

北川悦吏子さんの手練れぶりに持っていかれ

 朝ドラの王道を私なりに解説するなら、①は「女子が何者かになろうとする姿を描く」で、②が「戦争を伝える」だと思っている。②は時代設定などもあって描けないケースもあるが、きちんと入るとビシッとしまった朝ドラになる。

 「半分、青い。」のヒロイン鈴愛は、漫画家になる夢を見つけ、高校を卒業したら東京に行くと決める。農協への就職が決まっているのに、と反対する母(松雪泰子)。「鈴愛はね」と反論する娘に、「18にもなって自分のことを鈴愛と言うような子に、漫画みたいな競争の世界、やっていかれるはずがない」と言う。すると、鈴愛はこう返す。

 「お母ちゃん、漫画は競争の世界やない。夢の世界や」

 母を乗り越えて自分の道を歩みだす。何度も朝ドラで描かれるシーン。そこに「鈴愛」という一人称をもってきて、幼さゆえの強さを描く。「王道」かつ「うまい」。ウルっときた。以上が①。

 ②は、祖父の仙吉(中村雅俊)が担った。鈴愛の弟・草太(上村海成)が学校の宿題「戦争体験を聞く」について祖父に尋ねる。仙吉は「それは、じいちゃん、できん」と答える。本にも書いてあるし、話してくれる人もいるだろう。だけど、自分にはできない、と。

 ギターの弾き語りが得意な仙吉に草太は、「じいちゃんが僕くらいの時に、はやっていた歌を弾いて」と頼む。軍歌ばかりでいい歌など一つもなかった。あの頃、こんな歌がはやっていたら、死んだばあちゃんに聞かせたかったと言って、仙吉はサザンの「真夏の果実」を歌う。

 死んだばあちゃんは風吹ジュン。ナレーションも担当していて、仙吉が満州から引き揚げて来たことなどを語る。中村の歌と芝居で、戦争を描く。うまい。

「半分、青い。」の脚本を手がける北川悦吏子さん=東京・渋谷のNHK放送センター「半分、青い。」の脚本を手がけた北川悦吏子さん=東京・渋谷のNHK放送センター

 さらに北川さんは、新しさも出した。

 鈴愛の両親、晴と宇太郎(滝藤賢一)は、お互いを「ハルさん」「ウーちゃん」と呼び合う。「あなた」「おまえ」でも「ママ」「パパ」でもない。これまた、うまい。

 というような感想を得て、岐阜編の最後あたり。信頼する朝ドラ好きの友人に「北川さんは手練れだね」などと語った。彼女から返ってきたのは一言。「あざとい」。

 この指摘もよくわかった。①よし、②よし、新しさを足して、はいヒット。そんな印象を彼女は得たのだろう。

 今にして思えば、「あざとい」は「計算、高い。」であり、「手練れ」なんて言っていた私は、なんてお人好しなんだと思う。

 だが東京編でも私は、「北川さん、うまい」と思っていた。豊川悦司が演じる漫画家・秋風羽織が

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