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だから私の職業はミュージシャン!【動画あり】

韓国伝統音楽の若手先駆者ミン・ヨンチは、PSYもISSAもみんな友達

ミン・ヨンチ ミュージシャン 韓国伝統音楽家

ミン・ヨンチは韓国伝統音楽の若手先駆者だ。大阪に生まれ、中学まで日本で育った。韓国へ移り、ソウル大学音楽部国楽科を卒業。1990年代からテレビなどメディアに進出し、他のジャンルの音楽とのコラボレーションに取り組んできた。PSY(サイ)と楽曲を作るなど「韓国伝統音楽界の異端児」と呼ばれている。世界各国で数多く公演。日本でもこれまで3万人がライブを楽しんだ。DA PUMPのリーダーISSAとは旧知の仲だ。
韓国の伝統打楽器の即興“チャンゴソロ” 演奏:ミン ヨンチ=2018年8月、ブラジルのマナウス アマゾン劇場にて(ミン ヨンチさん提供)

ライトアップされた景福宮にて

 ソウルの真ん中にある景福宮(キョンボックン)にはかつて朝鮮王朝の王様が住んでいた。日本統治時代には朝鮮総督府の庁舎が置かれていた。様々な歴史の舞台となった場所だ。

 今では夜も一般市民に開放されている。華麗にライトアップされ、夜の王宮の雰囲気を醸し出している。

 9月下旬の1週間、本殿の隣にある修政殿で、韓国伝統音楽をメインにした歌や踊りのライブが午後8時からおよそ1時間繰り広げられた。チケットは連日売り切れだ。

 私はその舞台で、10分間ほどソロ演奏をした。そう、私の職業はミュージシャン。韓国伝統音楽家だ。

 日本で生まれ、韓国で活動している私には、感慨深い場所での仕事だった。韓国伝統音楽の活動をしてきておよそ30年。世界各国で舞台に立ち、様々な経験をしてきたが、ここは私にとってやはり特別な場所なのだ。

 その昔、ここで繰り広げられた数多の権力争いや派閥争いに思いを巡らせる。いや、今の世も民族や組織、宗教、派閥の争いは後を絶たない。

 なんて愚かなのか。強いものが弱いものをいじめている。学校や幼稚園で「いじめてはいけません」と学んだはずでしょ!

「教授」と「医者」と「弁護士」がみんな大好き!

韓国の伝統打楽器チャンゴを演奏するミン・ヨンチ(以下、写真は筆者提供)
 人間国宝である私の師匠はもうお亡くなりになった。もともとは李王朝の雅楽部にいらっしゃった。日本で生まれ育った私にだけ、日本語で稽古をしてくださった。「久しぶりに日本語を使いたい」とおっしゃっていた。よほど厳しく学んだのだろう。綺麗な日本語だった。

 師匠は常々、「音楽性よりも先に人間性を高めなさいという」と指導されていた。そのもとで修業を重ねたことは、私にとって大きな喜びだ。

 今の世では、教育者や文化人よりも、お金を稼ぐ人たちが尊敬される。世界中がだんだんお金至上主義になっている。非常に危うい気がする。人間性はどこへ行くのか、そこに寛容さはあるのか。

 「人間性を高めなさい」と教える韓国伝統音楽業界でも、熾烈な競争はある。地位や名誉を奪い合う。出る杭を打ちまくる。

 韓国は「教授」という職業が大好きだ。教授は神様のように扱われ、教授になると人格まで変わる人も少なくない。そこが人生のゴールみたいに思っている人もいる。

 ある年齢まで真面目なミュージシャンだった人たちが、教授になると急に性格も変わることもよくある。

 教授だけではない。医者も、弁護士も、みんな大好きだ。お金が儲かるのだ。

 娘が通う公立小学校の授業参観で、先生が「大きくなったら何になりたい?」とたずねると、子どもたちは「医者」「弁護士」と答えた。このふたつの回答ばかり。びっくりだ。

 そのなかでひとり「歌手」と言ったのは、私の娘だった。先生は「どうして?」と驚く。娘は「みんなに幸せをあげたいから」と答える。

 娘よ! なんて純粋なんだ! サランヘヨ!!

音楽に争いはない。音楽をやっていて、本当に良かった!

 世界中のお金持ちのなかで、自分で何かを直接作り、儲け、成功している人は、果たしてどのくらいいるのだろうか? 残念だが、ほんとうにわずかではないか。

 人間はものづくりをしなくなると、他人のやることをけなし、ライバルを潰し、認めなくなる。みんながそうするから、自分もそうしなければならなくなる。最悪だ!

 一流企業の社員より、下町の工場の社長を、私は尊敬する。

 昔の王様ってなんだろう。たぶん、喧嘩が一番強かった人だろう。今はそうではない。お金があれば喧嘩にも戦争にも勝てる。お金が武器なのだ。

 暴力はダメということはわかっていても、経済が暴力になっているということはなかなか分からないのかな。いや、みんなわかってはいるけれど、その方が楽だから、黙っているのかな。

 だからね、私は常々、音楽をやっていて、本当に良かったと思っている。

 すくなくとも、音楽には争いがない。それより、互いに協調しあうことを多く学ぶからだ。

ふたつのアイデンティティ

 こうした話を深く話し合った友人がいる。

 最近テレビでよく拝見するモーリー・ロバートソン。20年ほど前からのつきあいだ。

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