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ミュージカル『VIOLET』制作発表会見

梅田芸術劇場×チャリングクロス劇場 共同プロデュース公演

真名子陽子 ライター、エディター


拡大トム・サザーランド(左)と藤田俊太郎=冨田実布撮影

 梅田芸術劇場が英国のチャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演する新規プロジェクトを始動し、その制作発表会見が行われた。

 チャリングクロス劇場の芸術監督は、現在上演中のミュージカル『タイタニック』の演出家、トム・サザーランド氏。トムの総指揮のもと、日本とイギリスの共同で公演を企画・制作し、演出家と演出プランはそのままに、「英国キャスト版」と「日本キャスト版」をそれぞれの国の劇場で上演する。その第一弾のミュージカル『VIOLET』の演出を手がけるのは藤田俊太郎氏。ウエストエンドの一流クリエイティブスタッフとキャストと共に約6週間の稽古を重ね、チャリングクロス劇場で約3カ月間の公演をプロデュースする。

 梅田芸術劇場はこのプロジェクトの意義を、日本の演出家が英国で作品を発表できる機会を創出し、日本の演劇界、ミュージカル界をさらに活気づけること、としている。梅田芸術劇場のプロデューサーから、今回のプロジェクトを立ち上げた経緯の説明から、会見が始まった。

■トム・サザーランドと梅田芸術劇場の出会い

 トムとの出会いはミュージカル『タイタニック』の初演でした(2015年)。いろんな方から勧められて観た『タイタニック』をどうしても日本で上演したいと、トムのエージェントに連絡をとったことが始まりです。そして、初めて日本へ飛び込んで来てくださったその日からオーディションをし、スタッフとミーティングを重ねました。素晴らしい作品を創ろうと言ってくださったトムのプレゼンテーションは的確で、当時トムは30歳だったのですが、この人の船に乗ろうと決意しました。その後、一緒に仕事をしていく中で、ウエストエンドで活躍している素敵なクリエイターをたくさん紹介していただき、日本の演出家にもこのようなチャンスを与えたいと思ったのです。もちろん日本のクリエイターも優秀ですが、海外でできるチャンスに恵まれないのが残念だなと感じていて、でもどうすればいいか思い浮かびませんでした。

■プロジェクトの発足について

 ミュージカル『グランドホテル』(2016年)の演出で来日したトムは、チャリングクロス劇場の芸術監督に就任されていました。チャレンジ精神にあふれ頼もしく感じたトムとなら、兼ねてからやりたかった人と人とのコラボレーションができるのではと思ったのです。トムに提案すると、10年後にも続く将来性のあるプロジェクトをやってみようと即断してくださいました。

 その後トムとどんなプロジェクトにしようかと話を重ね、継続することで築けるものがあると感じ、まずは5年間で3プロジェクトを行うことになりました。作品も、既存のミュージカル、新作、ストレートプレイなどの垣根をなくして、演出家とトムがこれだと思う作品に出会うべきだと思いました。また、ロンドンで上演した作品を、直後とまでは言わないけれどもタイムリーに日本で上演する。それがこのプロジェクトの大きな目玉になっています。海外で上演した作品を日本で上演するまでに、早くて3年、遅かったら10年ということもあります。演劇が持つ「今」という時代性を少し逸脱して、懐かしの……という風になってしまうのがとても残念でした。でも今回は、日本人が演出しますので、「今」という時代性を取り入れることができる。そこもトムが賛同してくれた点であります。また、チャリングクロス劇場は商業ベースの劇場で、演劇通のお客さまに日本人が演出する新作を観ていただくことは、チャレンジ精神あふれるプロデュースになります。それを日本の優秀な演出家が体験できるというのも大きな目玉の1つです。

■藤田俊太郎氏を選んだことについて

 演出家を選ぶにあたって何度も会議を重ねた……と言いたいところですが、このプロジェクトをやれるのは藤田さんしかいないだろうというのが弊社の総意でした。藤田さんは偉大な演出家である故・蜷川幸雄さんのもとで修練を積まれて、イギリス演劇の厳しさを目の当たりにされています。しっかりとしたストレートプレイの基礎となるセンスをお持ちのうえで且つ新しいものにチャレンジし、ミュージカル作品の実績もあり着実に評価を得ています。毎回、新しいセンスを作品に持ち込まれている藤田さんにお願いしようと、満場一致で決まり、このプロジェクトのお話をさせていただきました。たまたまトムが演出された『タイタニック』の初演を観られていて、トムの感性にシンパシーを覚えていらした藤田さんから、ぜひやりたいとのお返事をいただきました。

 そこから、本当に面白いものができるのではないかと、藤田さんとトムが何度も打ち合わせを重ねていく中で、ようやく勝負しようという作品が見つかりました。それがミュージカル『VIOLET』です。2人が納得する作品を探す旅を、2~3年かけてしてきました。大きなチャンスだと思っていますし、日本の演劇界にとって大きな一歩になればいいなと思っています。

★トム・サザーランド氏のあいさつ

拡大トム・サザーランド=冨田実布撮影
 2014年以来、毎年来日できることをうれしく思っています。初めて来日したときは、すごく怖かったですね。その気持ちは今も覚えています。日本での仕事は記憶に残る素晴らしい体験になっていますし、『タイタニック』は僕の中でとても特別な作品になりました。

 演劇は僕の人生のすべてです。起きた時から寝るまでのすべての時間、演劇のことを考えています。演劇は僕の人生の中に常にあるものなんです。一緒に仕事をするスタッフは家族のように思っているし、新しい人たちと新しい環境を作っていくのは大好きです。そして僕自身も新しいものを得ていきたいと思っています。だから、今回のプロジェクトは光栄ですし、藤田さんをロンドンへ連れていけることが本当にうれしいです。言語を超越するものが演劇だと思っています。『VIOLET』をはじめとして、国際的にみんなが関われる作品を残していきたいと思っています。このプロジェクトを始めるのがうれしくて待ちきれないです。早く藤田さんを僕の家に招待したいし、僕を温かく迎えてくれたように、僕も温かくロンドンへ迎えたいと思います。

★藤田俊太郎氏のあいさつ

拡大藤田俊太郎=冨田実布撮影
 今回のプロジェクトへ参加できることを大変光栄に思っています。チャリングクロス劇場へは何度か行く機会があり、芸術監督であるトムとプロデューサーのレヴィが創り出すクリエイティブな空気と、歴史ある劇場に感銘を受けてきました。この作品をロンドンで初めて上演します。今は、これから出会うキャストの皆さん、カンパニーの皆さん、優秀なスタッフの方々とお仕事できることを、とてもワクワクした気持ちで待ち受けています。

 『VIOLET』は1960年代のアメリカの公民権運動を背景にしています。1人の女性ヴァイオレットが生まれた場所であるノースキャロライナを出て、バスに乗って旅をする。その旅の中でたくさんの人に出会っていきます。今まで出会うことのなかった人たちの価値観や宗教、人種を超え、格闘しているその時代の姿を目撃し、ヴァイオレットの心の中が少しずつ変化していく、というのがこの話のテーマになっています。新しい価値を求めて闘ってきた人たちの話、それを一市民であるヴァイオレットの目線で描いた話の価値は今、また新たな価値を持って皆さんへ伝わるのではないかと思っています。また、アメリカのルーツになる素晴らしい音楽に溢れている作品です。チャリングクロス劇場では劇場そのものをヴァイオレットが乗ったバスのように仕立てて、バイブレットと一緒に観客に旅をしてもらう。そんな演出を考えています。日本での上演は2019年以降です……皆さん、ぜひ! ロンドンでお会いしましょう!(笑)

★トム・サザーランド氏へ――『VIOLET』に決めた理由を教えてください。

 世界共通で受ける作品というのは数少ないと思っているのですが、『VIOLET』はその数少ない作品に入ります。チャリングクロス劇場はちょっと変わったスペースを持つ劇場なんです。小さいと言うより親密な空間と呼ぶのが好きなんだけれど、お客さまが作品の一部になるような感覚が得られる空間です。チャリングクロス劇場でやる作品は、お客さまに関わっていただける時間を持ってもらえるような作品にしたい。『VIOLET』はまさにそういう作品です。そして、日本人の演出家が取り扱うからこそ良さが引き出されるんじゃないかと考えています。アメリカのミュージカルを、ロンドンでプロデュースして、そのクリエイションは日本人の演出家がする。このミュージカル、このストーリーは、どんな文化をも超越できるということを証明する。そういう作品だと思っています。そして藤田俊太郎という才能溢れる演出家の作品が、ロンドンでイギリスのお客さまの目に触れる機会があるということを、本当にうれしく思っています。

★藤田俊太郎氏へ――とても大きなプロジェクト。ぜひやりたいと思った思いを聞かせて下さい。

拡大トム・サザーランド(右)と藤田俊太郎=冨田実布撮影
 トムが言ったように僕も演劇がすべてです。生活の、人生のすべてです。新しい場所に行きたいし、新しい人に出会いたいし、演劇的な体験を一生続けていきたいと思っています。これだけ野心的なプロジェクトに出会えたことに感謝し、即答させていただきました。ただただ、良い作品を創りたいです。

トム:ひとつ付け足していいですか? だからこそ藤田さんにロンドンでこの作品をやって欲しいと思いました。僕は演出家なので、他の演出家に仕事を渡すのは変な事なんだけれども、この作品に関して僕は、藤田さんほどの良さを引き出せないと思っています。藤田さんがこれから、僕が普段ロンドンで仕事をしている人たちと一緒にコラボレーションしていくことで、より大きな深みのある、インパクトのある作品を創り出せると信じています。だから、僕がチケットを買う一人目になります(笑)。

藤田:さらに付け加えますと(笑)、演出家として個人で何かやろうという野心もあるんだけれど、それよりも良い作品を観たい、創りたいだけなんです。演劇が現代を照らし出す鏡であり続けることができるんだろうか。それには国は関係ないし、こういう才能のある方に出会えれば、その鏡は新たな光を配してくれるかもしれないと思っています。

★藤田俊太郎氏へ――トムさん演出の『タイタニック』の魅力は?

 日本版とイギリスでのツアーバージョンを観ました。ファーストシーンでタイタニック号は出航していきますが、観客がタイタニック号を見送ったという視点を感覚的に創っている。そして観客はいつの間にかタイタニック号の乗客になっている。しかも一等席から三等席の乗客になっている。そして、ラストシーンに近づくと今度は沈没するタイタニック号と沈没するタイタニック号から生き残った両方の視点を描いていて、お客さまに委ねられている。タイタニック号を通して様々な視点を体感できる。これは演出の力だと思います。そこに非常に感銘を受けましたし、タイタニック号の話をこのような形で演出するのを観たことがないです。ミュージカルを体験することを導き出せる数少ない演出家だと思います。尊敬しています!

★トム・サザーランド氏へ――藤田さん演出のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の感想をお願いします。

 『ジャージー・ボーイズ』はよく知っている作品で、藤田さんの作品を観るまでは少なくとも知っていると思い込んでいました。藤田さんの手によって全然違う作品に変身していました。ブロードウェイとウエストエンドで観ていますが、不思議と自分の言語じゃない言語で観たときに、初めてストーリーを理解できたのではと感じました。それは藤田さんのおかげです。僕がロンドンで観た『ジャージー・ボーイズ』はどちらかというとフランキー・ヴァリとザ・フォーシーズンズに対するトリビュートの感覚が強かったです。藤田さんの今回のプロダクションで、キャストのストーリーが明確になり、アーティストが成長していく過程がより理解できるようになりました。そして、嫌なところも持っている普通の人間が、世界的なアイコニックなバンドになっていくという姿を描いていました。藤田さんが演出した『ジャージー・ボーイズ』が世界のたくさんの人の目に触れる機会があればと思っています。世界の演劇人たちが、日本の優れた演出家からたくさんのことを学べると思います。

拡大トム・サザーランド(左)と藤田俊太郎=冨田実布撮影

★トム・サザーランド氏へ――藤田さんにこの仕事を任せたいと思った理由は?

 この『VIOLET』の物語の設定が、時代も場所もロンドンに住んでいる僕、東京に住んでいる藤田さんとも全然違う時代であり場所であります。この作品を演出するにあたって、その時代や場所、そういうものにとらわれずに人間に視点を置いてくれる、そういう演出家が必要だと思いました。藤田さんとこの作品について話していく中で、この作品の世界と今の私たちが住む世界がパラレルに展開されていることを、藤田さんはたくさん指摘していました。

 この作品はエンターテイメント性もあります。演出家がちゃんと、エンターテイメント性というのは、メッセージをお客さまがちゃんと吸収するためにある、ということをわかっていないといけません。それはとても難しいバランスなんです。時代や場所よりも人間のドラマが重要だと思ってくれる藤田さんのような演出家がぴったりだと思いました。また旅をする人間の話でもあります。知らない場所へ、何かを信じて旅に出る。藤田さんがロンドンへ来るということは、ヴァイオレットと同じ旅をするのではないか、そういうパラレルもあるのではないかと感じています。イギリスでヴァイオレットを演じる女優さんにアドバイスをするにあたって、藤田さん自身の経験が役に立つのではないかと思っています。

★藤田俊太郎氏へ――日本公演はどういうふうに取り組まれますか?

 演出は変える予定です。テーマやアプローチ、方向性は何も変わらないです。ヴァイオレットと一緒に観客が旅をするということ、音楽が美しく叙情的に響いていくことは何も変わらないですが、やはり日本人によりわかりやすくするための入り口は、明確に創ろうと思っています。1960年代のアメリカを演じるという構造を、冒頭とラストに創ろうと思います。今の日本にいながら追体験できるような仕掛けをたくさん創ります。

★トム・サザーランド氏へ――今回は芸術監督としてどのような形で関わっていかれますか?

 僕は何もしないです(笑)。僕だって誰かに見張られていると気が休まらない。隣で待っている状態ですね。必要なときに呼んでもらって……必要とされないと思いますけどね。僕は絶対に影響を与えたくないと思っています。もちろん藤田さんが安心して心豊かにクリエイションできるようにお手伝いできればと思っています。チケットを買って初日に観に行きます(笑)。それが今からとても楽しみです。

◆公演情報◆
梅田芸術劇場×チャリングクロス劇場 共同プロデュース公演
ミュージカル『VIOLET』
・英国ロンドン公演:チャリングクロス劇場
2019年1月14日(月)~1月20日(日) プレビュー公演
2019年1月21日(月)~4月6日(土)
・日本公演:ロンドン公演終了後の東京・大阪にて上演

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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