メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

医学部を受験する女子の成績が男子より高い理由

上野千鶴子 社会学者

女子受験者の一律減点が発覚した東京医科大学拡大入試で女子合格者数を「調整」していた東京医科大学

憲法違反の性差別入試

 おそれていたことが現実になった。東京医科大学入試不正事件である。もっとはっきり言おう。東医大性差別事件と呼んだほうがよい。

 医師国家試験合格者の女性比率が3割を超したあたりから、いずれ「女性医師バッシング」が起きるのではないか、と憂慮していた。女性医師(注1)の離職率も非正規雇用率も高いことは知られている。医師の養成には時間もコストもかかる。せっかく養成した医師が第1線の戦力にならないとなると、「女子医学生亡国論」が起きるのではないか、と案じていた。事実、医学界の一部では、その懸念をうらづけるような議論が登場していた。

 わたしの念頭にあったのは、1965年に早稲田大学教授(当時)の暉峻康隆さんが唱えた「女子大生(学生)亡国論」である。せっかく高等教育を受けても家庭に入ってしまうなら、教育費用はムダになる。それならそのコストを男子に回す方がよい、という説である。60年代後半は、高等教育の大衆化が始まり、団塊世代の成長に伴って受験競争も激化しつつあった。

 まさか国家試験で調整は行われていないだろうと思っていたが、その初期段階、そもそも入学試験のレベルで女性比率の調整が行われていたとは! 養成の時点ですでに性差別は始まっていたのだ。内情が明らかになってみれば、2次試験の小論文で受験者すべての得点に0.8を掛けたうえに、男子の現役から2浪には20点、3浪には10点の加点、女子と4浪以上の受験生には加点をしないという、まことに単純で機械的なやり方である。差別にはマイノリティに不利な処遇をするのと、マジョリティに下駄をはかすやりかたの2種類があるが、ここでは「男であること」がそのまま上げ底になるというわかりやすい性差別が行使されている。しかもこの方法は何年にもわたって実行され、ほぼ公然の秘密になっていた、というから驚く。

 この問題が明るみに出たのは、文科省の科学技術・学術政策局長だった佐野太被告の裏口入学をめぐる収賄事件がきっかけだが、もしこの事件が発覚しなければ入試不正は、いや入試における不当な性差別は、このまま継続していたのだろうか? そしてもしこの事件がなければ、医師養成過程における性差別の実態は、調査もなされず、表に現れることはなかったのだろうか?

 この性差別入試は、どんなふうに弁護しても、憲法と教育基本法の男女平等原則違反である。社会学者の山口一男さんは「女性割合の調整は憲法違反・教育基本法違反で募集要項に記して許される問題ではない」ときっぱり断言する(注2)
(注1)「女医」とは呼ばない。それに対応する「男医」がないからである。「女医」は「女流作家」と同じく、デフォルトが男性である職業の特殊なグループを指す(差別)用語だからである。
(注2)山口一男「東京医科大学の入試における女性差別と関連事実 ― 今政府は何をすべきか」独立行政法人経済産業研究所HP

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

上野千鶴子

上野千鶴子(うえの・ちづこ) 社会学者

1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。1994年、『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞、2011年朝日賞受賞。著書に、『ナショナリズムとジェンダー』『生き延びるための思想』『おひとりさまの老後』『身の下相談にお答えします』『男おひとりさま道』『おひとりさまの最期』など多数。近刊に『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』(朝日文庫)。