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ハズキルーペの「バブル」CMが気になる理由

太田省一 社会学者

「ハズキルーペ」のCM渡辺謙と菊川怜の出演でブレークした(?)「ハズキルーペ」のCM=公式サイトより

 CMは商品やサービスを売るためのもの。だがまずは、印象に残らなければ意味はない。「目立ってなんぼ」というわけである。

 その点、いま圧倒的強みを発揮しているのがなにかと話題の「ハズキルーペ」のCMだろう。

 ハズキルーペは、字が小さくて読みづらいときなどのためのメガネ型拡大鏡。Hazuki Companyが販売元だ。公式サイトによると、「30年のロングセラー」ということらしい。逆に言うと、それまで一定の支持を得た商品ではあったが、これほど世間に注目されたのは今回のCMがきっかけということになる。

ベタで悪ノリ風も

 その歴史をさかのぼるとかつては石坂浩二なども出演しているが、注目を集め始めたのは現在のシリーズものになってからだろう。

 第1弾は昨年2017年12月から放送開始、出演は舘ひろしと松野未佳である。夜の高級レストランで親子と思しき舘と松野が食事中。ワインの年を聞かれてハズキルーペをかけてラベルを読む舘。その後松野が椅子に置かれたハズキルーペのうえに座ってしまう(これはこの後定番のパターンになる)。すると舘は「大丈夫、大丈夫。日本製だし」とほほ笑む。その瞬間、窓の外には大きな花火が上がる。

 続いて今年2018年4月から始まった渡辺謙と菊川怜が出演の第2弾。一気に認知度が高まったのはこのあたりからだろう。企業の新製品発表会のようなシチュエーション。「本当に世の中の文字は、小さすぎて読めなーい!」と渡辺がいきなり怒り顔で叫ぶ。「でもハズキルーペをかけると、世界は変わる」と一転ニッコリする渡辺と「私も世界が変わりました」と同調する菊川。そして菊川が椅子の上のハズキルーペに座って強度を試すお約束のシーン。最後は「ハズキルーペだ~い好き」と言いながらハズキルーペをかけた菊川が指でハートマークをつくりウインクする。

 そしていまオンエアされている第3弾。今度は銀座にでもありそうな高級クラブの店内。そのママに扮するのが武井咲だ。当然、彼女の主演ドラマ『黒革の手帖』を意識してのものである。そこに客としてやってくる小泉孝太郎。さっそく武井は、店で販売することにしたハズキルーペを小泉にすすめ始める。すると隣のテーブルに客として来ていた舘ひろしが突然カットイン。ハズキルーペをかけて「これ、咲の生まれた年だね」とワインのラベルを見ながら微笑む。いうまでもなく第1弾のシーンにひっかけた演出である。ほかにも小泉が渡辺謙の「~読めなーい!」を真似るシーンもあって、メタな視点が入っている。ハズキルーペの上に座って強度を試すお約束のシーンも今回は武井を含む4人の女性がやっていて、CMの反響を重々わかったうえでの悪ノリ風でもある。

 とはいえ、基本はあまりひねりもなくストレート。ベタなCMと言っていい。

オンエアされている第3弾。今度は銀座にでもありそうな高級クラブの店内。そのママに扮するのが武井咲だ。当然、彼女の主演ドラマ『黒革の手帖』を意識してのものである。そこに客としてやってくる小泉孝太郎オンエア中のCM。高級クラブのママに扮する武井咲(左)と小泉孝太郎=公式サイトより

表現の遊びがあったバブル期の“余裕”

 だがそれなのに気になってしまうひとつの理由は、出演者の豪華さだろう。舘ひろし、渡辺謙など大物俳優揃いなのに、拡大鏡という地味な商品の取り合わせ。設定も家の居間で新聞を読むシチュエーションとかならわかるが、なぜか高級レストランや高級クラブが舞台になっていたりする。そのギャップがまず目を引く。

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