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女性医師を増やさないという「ガラスの天井」

上野千鶴子 社会学者

「女子が合格しにくい」医学部は全体の7割を超える拡大文科省が医科大・医学部の入試を調査したところ、7割を超える大学で男子の合格率が高かったという

合格しにくい医学部ランキング

 東京医科大学の性差別不正入試の報道を受けて、メディアは独自取材の結果を発表した。『AERA』は「『女子不利』他大学でも? 女子が『合格しにくい』医学部ランキング」(注1)で60校を、『週刊朝日』は「医学部入試『女子だけ狭き門』ランキング30」(注2)で30校をランキングしたが、その後、文科省は全国の医科大・医学部計81校に対して緊急全国調査を実施、9月4日にその結果を発表した(注3)。過去6年間の入試での受験者の合格率の男女比を尋ねたものだ。

 それによると男子の合格しやすさ(男女受験生の合格比率)の平均は1.18倍、70%にあたる57校で1を超えた。うち最大は順天堂大の1.67、東北医科薬科大の1.54、昭和大の1.54と、上位を私立医大が占める。問題の東京医科大は1.29と14位。国立大学でも京都大1.27、名古屋大1.26、大阪大1.13と男性優位であり、東京大は1.03と1に近い。1前後には和歌山県医大1.01、佐賀大1.01、札幌医科大1.01、鳥取大1.00、島根大0.97と地方医大が並ぶ。1以下になるともっとも女性の合格率が高いのは弘前大の0.75をトップとして、岐阜大0.84、徳島大0.87、三重大0.88と地方国立大が続く。成績優秀な女子学生の地元志向を考慮に入れれば、これらの大学は入試に当たって操作をしていないことが考えられる。

 年齢別では18歳と19歳の合格率が高く、「年齢が上がると合格率が低下する傾向がある」というのは妥当なところだろう。現役合格者に比べて、浪人経験者はもともと合格点に達していなかったからである。

 これまで受験者と合格者の性比の発表は各大学に任されており、こうした全国調査を文科省が実施したのは初めてである。統計的差別を実証するにはまず基礎的なジェンダー統計が必要だが、それすら今日に至るまで、放置されてきたことになる。

 文科省の調査に答えて、各大学は「厳正な試験をした結果」と説明。東医大以外に「年齢や性別で不当に扱いの差をつけた」との回答はなかったという。興味深いのは東医大合格者の女性比率が前年までの30-40%に対して18年度には15.9%と急落。前年までの増加傾向に歯止めをかけたいという動機が働いたのかもしれない。だが統計的にはこの数値は特異な変化であり、なにごとか誘導があったと疑われる根拠となる。

 文科省の担当官はさらに興味深い指摘をしている。「男子優位の学部、学科は他に見当たらず、特徴的。理工系も文系も女子が優位な場合が多い」(山田泰造文科省大学入試室長)。この指摘は、統計的に見て、これまで述べた女子学生の進学傾向に妥当する。しかも国立大学では女子合格率が高い傾向があることは、前記の指摘と一致する。だとすれば、私立の医科大は高い男性優位の傾向に対して、説明責任があるはずだ。

 文科省は不正の疑いのある大学に訪問調査を実施し、10月中には中間報告をまとめる予定という。受験生の得点開示や面接時の評価などに踏み込んだ調査を実施しているだろうか? その過程で、順天堂大に次いでもっとも女子の入りにくい昭和大でも、不正入試の疑いがあることが関係者への取材から報道された(注4)。他にも複数の大学で疑いが指摘されているが、いずれも9月の調査では「不正はない」と回答している。「募集要項で明示せずに」異なる取り扱いをしたとあるが、次年度から「募集要項で明示」すればすむのだろうか。明示しようがしまいが、性差別が許されないことは言うまでもない。安易な幕引きは許されない。
(注1)『AERA』2018年8月27日号、朝日新聞出版
(注2)『週刊朝日』2018年8月31日号、朝日新聞出版
(注3)以下の記述は次の報道による。
「医学部合格率、8割の大学で男子が上=「得点操作」東京医大のみ-文科省緊急調査」@時事ドットコム
「医学部入試 半数以上で男子合格率女子上回る 文科省調査」@毎日新聞2018年9月4日 19時33分(最終更新 9月4日 20時18分)
「医学部入試63校、男子が女子上回る…緊急調査」@YOMIURI ONLINE
「医学部8割で女子合格率低く 最大1.67倍差、文科省が調査」@共同通信47news(表、画像あり)
「8割近くで「男性優位」 過去6年の全医学部入試合格率、文科省速報結果」@産経ニュース2018.9.4 17:44
「全国の医学部合格率、男子が女子の1.2倍 過去6年」@朝日新聞デジタル2018年9月4日17時39分
「医学部合格率、男子優位6~7割 文科省の全国調査」@日本経済新聞2018/9/4 17:00
(注4)「医学部不正入試 昭和大も疑い 男子、女子の1.54倍有利」毎日新聞10月14日付朝刊。「他大も不適切入試疑い 東京医大の不正、文科省調査」朝日新聞10月12日付朝刊

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筆者

上野千鶴子

上野千鶴子(うえの・ちづこ) 社会学者

1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。1994年、『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞、2011年朝日賞受賞。著書に、『ナショナリズムとジェンダー』『生き延びるための思想』『おひとりさまの老後』『身の下相談にお答えします』『男おひとりさま道』『おひとりさまの最期』など多数。近刊に『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』(朝日文庫)。