2018年10月24日
これから私が書くことは、沢田研二さんのファンならみんな知っていることだ。「今さら感」満載に違いない。
だけど、テレビで沢田さんの「公演ドタキャン」が取り上げられても、きちんと「最近のジュリー」を話す人がいなくて、やっぱりテレビだと話せないんだなと思い、書くことにした。ごく個人的な体験を通した「最近のジュリー」の話だ。
始まりは、2016年の夏の終わり頃、出版社を定年退職したフリー編集者とのランチだった。「行けない人が出て、ジュリーのコンサートのチケットをもらったの」。彼女がそう話し出した。
「昔の歌なんて、ほとんど歌わないのよ。ずーっと知らない曲を歌っててね。何だろうと思って、じーっと聞いてたら、全部、反原発の歌なのよ。私、感心しちゃった」
そういう話だった。
2013年には「ザ・タイガース復活コンサート」が大いに話題になっていた。その中心にいたジュリーが反原発? 興味を持って、早速調べた。驚いた。
2012年からジュリーは、3月11日が来るごとに新譜を出していた。大手のレコード会社からではなく、自分のレーベルからだった。当時、すでに5枚そろっていたアルバムのタイトルを、2012年3月11日リリースから並べていくとこうだった。
3月8日の雲→Pray→三年想いよ→こっちの水苦いぞ→un democratic love
被災地への思いが、タイトルだけで伝わってきた。毎回4曲収録で、作詞はすべてジュリー。その頃シニア女性誌の編集長をしていたので、これは記事になると思った。当時、ジュリーは68歳。同世代の読者がたくさんいるから、今の彼を知りたい人は多いはず。そう思い、5枚のアルバムを買って聞いてみた。これまた驚いた。
ストレートだった。だけど名曲ばかりだった。2曲だけ取り上げる。
まずは「三年想いよ」に収録された「一握り人の罪」。
「原発に怯える町 原発に狂った未来 繰り返すまい明日に 一握り人の罪 嗚呼無情」。そう終わって、そこから子どもたちの合唱が入る。「はーいろ、はいろ。輪の中、はいろ」。
「かーごめ、かごめ」の調子だ。輪の中に入りましょうと呼びかける相手の名を呼んでいく。「ふくちゃん、げんちゃん」から始まり、「つるちゃん、もんちゃん、おなちゃん」のあたりでオヤっと思い、「とまちゃん」で膝を打つ。「敦賀」「もんじゅ」「小名浜」「泊」なのだ。はいろ=廃炉。夜、一人でこれを聞いていて、その仕掛けがわかった瞬間、ちょっと鳥肌がたった。ジュリーの気迫が、子どもの声から伝わってきた。
もう1曲はアルバムタイトルにもなっている「un democratic love」。
「もしかしたら君は 本当の愛 知らない」で始まる。ラブソングの出だしっぽい。こう続く。「怒らないで君は 勝手だから いつもなし崩しだ 会話にならない」。ん?と思っていると、「祈りますとも 君と国のため 君と同じくらいに 自由が好きでも」と続く。サビはこうだ。
「君の愛は束縛 君の愛は強権 心の深さに届かないんだ 君の愛は軽率 君の愛は簡単 un democratic love don't love me so」
「君の愛」は、まだまだ続く。君の愛は「冷酷」。以下、不遜、脆弱、違憲、狡猾、蹂躙、ダダっ子と来て、最後は危険。
メロディアスなラブソングの仕上がりだが、聞くたびに口元が緩んでしまう。「安倍さーん、そんなに愛さないでって、言われてますよー」。
当時、こう理解した。これは「我が窮状」に連なる系譜だな、と。
2008年にリリースされたジュリーの還暦記念アルバム。中に収録された1曲が「我が窮状」だった。作詞はジュリー、作曲は大野克夫。「この窮状 救うために 声なき声よ集え 我が窮状 守りきれたら 残す未来 輝くよ」。ステキなバラードだ。窮状=9条。伸びやかな声で、憲法の窮状を歌う。なんてオシャレなんだ、ジュリー。
ということを把握している程度には、ジュリーが好きだった。3・11シリーズを記事にしたいと思い、即、取材を申し込んだ。そこからの話は後で書く。
「カサブランカ・ダンディ」が1曲目、少し下に「F.A.P.P」とあって、これには見覚えがあった。
2012年リリースの「3月8日の雲」の3曲目だ。「バーイバイF.A.P.P、バーイバイ原発」。そんなサビを高い声で歌う。ジュリーに似合う、明るい歌だった。Fukushima Atomic Power Plant= F.A.P.P。ああジュリーは、そういうコンサートを続けているのだな。
そう思って確認した。
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