2018年10月25日
医師が過重労働になるのは、人口当たりの病床数が多く、外来受診数が多く、保険診療点数が抑制されており、医師が不足しているからである、と日本の医療システムの構造的な原因を指摘するひともいる。個人的な問題の背後には構造的な問題が横たわっている。だが、その構造を厚生官僚と共に長期にわたるなれ合いのもとで維持してきたのは、医師会自身ではないのか。開業医と勤務医とのあいだには大きな格差がある、医師会は開業医主導だったというなら、それを放置してきたのは誰なのか。
八つ当たりのように、医師の過重労働は国民健康保険制度のせいだという人すらいる。日本の医療は質が高く、相対的に安価で、病院のアクセスへのハードルが低い、だから病院へ患者が押し寄せる、と。だが5時間待ち3分診療の現実が、ほんとうに「質が高い」医療と言えるかどうかは疑問だし、何より病院へ好きで行くひとはいない。安価で民主的な国民皆保険は、日本の誇るべき財産だ。患者に診療抑制を求める前に、安易な診療行動を誘発したのは、これも誰なのか?
診療の完全予約制を採用すれば、医療現場は医師にとっても患者にとっても劇的に改善するだろう。できないはずはない。歯科診療の多くはとっくにそうなっているのだから。予約がとりにくくなれば、自ずと診療行動は抑制される。今でもすでに専門病院の敷居は高くなっている。緊急性の判定は、家庭医が行えばよい。
医師が足りない、という。なら増やせばよい。だがそうすれば医療費が高騰する、という。「医師の賃金が現状のままならば」という前提なら、そうなる。医師の働き方改革を唱えるひとたちが、触れようとしないのは、医師の報酬問題だ。
医師と並んで高給取りの専門職は弁護士だが、司法改革で弁護士業界は激変した。アメリカなみの司法サービス需要が増えると見込んで始まった司法改革によって司法試験合格者が増えたにもかかわらず、見通しを誤り、法曹市場は拡大しなかった。そのため、現在ではかえって司法試験合格者の引き締めに入った。法曹人口が増えても法曹市場が拡大しなければ、1人あたりの分配が減る。
法曹養成のために導入した法科大学院は、合格率にばらつきが大きく、一部はすでに閉校に追い込まれた。苦労して合格した後にも、司法修習生は就職難に苦しむようになった。法曹のプロの平均所得は、これから低下するだろう。そうなれば弁護士は特権的な職業ではなくなる。弁護士がもうかる職業でなくなれば、経済動機ではなく、社会貢献動機で法曹を志す若者たちが参入してくれるだろう。これは弁護士に限らない。税理士、公認会計士など、士業一般のサービスの価格破壊は進行中である。
同じように、医師が増えても、
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