メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

「目からウロコ」の響きを求める小倉貴久子さん

第48回JXTG音楽賞で洋楽部門奨励賞を受賞したフォルテピアノ演奏の第一人者

池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

「全音均等」が広がったワケ

 イネガルの発想、アーノンクールのいう「修辞法としての音楽」の伝統は第2次世界大戦、続く急激な経済復興の過程でいったん、消滅した。

 「書かれていないのが当たり前」の部分は、同じ文化圏を共有する者どうし、世代から世代へと口承伝承で受け継がれていた。戦争で多くの音楽家が亡くなる、あるいはナチスのホロコースト(大量虐殺)の犠牲となる、などの理由でバトンタッチの機能不全が生じたのである。よって「行間」の読みが極めて不足したままの「楽譜に忠実な演奏」、あるいは「全音均等の再現」がまかり通るようになった。

 日本の事情はもっと深刻だ。元々が輸入文化であり、1945年の終戦時点でも明治維新の本格導入から70数年の蓄積しかないうえ、演奏家の“大量生産”が始まったのは1950年代なので、もろに世界楽壇の「全音均等礼賛」期と重なった。

 小倉もピアノを習い始めた子ども時代、「均等が善で、不均等は悪という価値観」をたたき込まれ、「粒をそろえて弾きなさい」と教えられて育った。日本全国のピアノ教師の大半が、小倉と同じ初期教育を受けている。

音楽に必要な抑揚や呼吸

ピアノフォルテ拡大
 最近はフォルテピアノのスペシャリストとして教師団体から招かれ、講演する機会も増えた。「拍にも表と裏があるから拍節感が生まれるのです。言葉をすべて均等に発音したらロボットになってしまうのと同じで、ピアノでも抑揚や呼吸がないと音楽になりません……などと話しただけでも、驚かれてしまいます」と苦笑する。

 モーツァルトやベートーヴェンなど18〜19世紀の主要な鍵盤作品すべてが「モダンピアノのために書かれたものではない」と認識し、フォルテピアノをはじめとするピリオド楽器の世界に足を踏み入れるのは苦痛でも何でもなく、「推理小説を読み解くような面白さに満ちている」と、小倉は「旅」の楽しさを語る。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

池田卓夫

池田卓夫(いけだ・たくお) 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社に記者として入社。企業や株式市場の取材を担当、88〜91年のフランクフルト支局長時代に「ベルリンの壁」崩壊からドイツ統一までを現地から報道した。音楽についての執筆は高校在学中に始め専門誌へも寄稿していた。日経社内でも93年に文化部へ移動、95〜2011年に編集委員を務めた。18年9月に退社後は「音楽ジャーナリスト@いけたく本舗」を名乗り、フリーランスの執筆、プロデュース、解説MC、コンクール審査などを続けている。12年に会津若松市で初演(18年再演)したオペラ「白虎」(加藤昌則作曲)ではエグゼクティブプロデューサーとなり、三菱UFJ信託芸術文化財団の佐川吉男賞を受けた。