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岩下志麻さん 川端康成作「古都」拡大川端康成原作・中村登監督『古都』で二役を演じた時の岩下志麻

 「連載 必見! 濱口竜介『寝ても覚めても』」で論じたように、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』は、東出昌大が二役を演じる恋愛映画の傑作だが、本稿では、映画という表象メディアで最も効果を発揮する<一人二役>について、あらためて考えてみたい。

 そもそも、映画における一人二役とは、じつに奇妙な手法である。というのも、一人二役映画では、その設定が、他人の空似(そらに)であれ双子であれSF的複製人間であれ、むろん一人の俳優が二人の人物を演じるが、観客はそのことを承知しているにもかかわらず、同時に、それが二人の別人であると見なして映画を観ている。同じ俳優が二人の人物を演じているという事実を、いったん忘れて(あるいは忘れたふりをして)、もしくはその判断を保留する(括弧に入れる)かのようにして、映画の中に入りこむわけだ。

 これはいわば、自分で自分をうまいぐあいに騙すことであり、さらにいえば、本当のことより、「本当らしさ(というフィクション上の約束事)」を受け入れることでもある。もっとも、一人二役のみならず、そもそも映画(や演劇)における俳優を、観客は俳優その人であると了解しつつも、同時に作中人物であると見なすという認知のアクロバットを、脳内でやっているわけだ(もちろん、なかば無意識のうちに、である)。映画の世界に引きこまれている筈の観客が、にもかかわらず、俳優の演技の巧拙などを判断しうるのも、そうした理由からだ(その場合、観客は「ベタ」であり、かつ「メタ」であるという意識の状態で映画に接しているわけだ)。

 ともあれ、まさしく映画や演劇は“魔術”なのだが、以下に、『寝ても覚めても』以外の<一人二役映画ベスト…>を挙げておこう(製作年順)。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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