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映画祭を企画した日本大学芸術学部映画学科の学生ら。後列中央が古賀太教授=東京都練馬区の日本大学芸術学部拡大映画祭を企画した日本大学芸術学部映画学科の学生たち。後列中央が筆者

「朝鮮半島」は未来につながるテーマ

 この映画祭の最近のテーマは社会的なものが多い。「労働」「マイノリティ」「宗教」と続き、昨年(2017年)は「天皇」だった。そして今年は「朝鮮半島」。もちろんすべて学生からの提案だが、なぜこういうテーマが出てくるかというと、こちらが「内容がありながら、人が入る企画」という方向に引っ張っていくから。そこから「映画業界が考えそうもない、学生ならではの発想」「社会的なインパクトがあり、時事性があって話題になるもの」「映画を見てみんなで議論したくなるラインナップ」といった方向性が生まれてくる。

 今年は「映画ビジネス」のⅠ、Ⅱ、Ⅲを取得した3年生14人が参加している。最初は全員が各自1本の企画を持ち寄り、みんなで話し合った。毎週絞っていって、6月頃に「#MeToo」「1968」とこの企画が残った。それから映画館の支配人にこの3つの企画をプレゼンして選んでもらう。こうして「朝鮮半島と日本」というテーマが決まった。

 このテーマを出した金子絹和子(きわこ)さん(21)は、去年「映画批評演習」という私の授業で『キューポラのある街』(1962年、浦山桐郎監督)を見た時に「北朝鮮帰国事業」のことを知ったのがこの企画の発端と言う。私は上映後に「帰国事業」を説明し、テッサ・モーリス=スズキの『北朝鮮へのエクソダス――「帰国事業」の影をたどる』を紹介した。その本を読んだ金子さんは、「こんな大事なことを知らなかった」「誰も教えてくれなかった」と大きなショックを受けた。

 ユーロスペースの北條誠人支配人と私がこの企画を選んだ一番の理由は、時事性だ。選んだのが6月末で、ちょうどアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が会談するという奇跡のようなニュースが流れた直後だった。今後、朝鮮半島は話題になると感じた。「1968」も日大や東大の闘争の1968年から今年で50年ということで惹かれたが、この企画の方がより未来につながると考えた。

 去年の「天皇」映画祭でもそうだったが、「朝鮮半島」もデリケートなテーマ。在日の方がどうとらえるかわからないし、右翼や「ネトウヨ」などの攻撃の対象になる可能性もある。ただ、このまじめに考えた企画案を見たら、学生たちの姿勢をわかってくれるのではないかと思って私は決断した。心配したのは学生も同じだ。何人もの学生が、

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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。著書に『美術展の不都合な真実』(新潮新書)、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社新書)、訳書に『魔術師メリエス──映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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