2018年12月13日
現在、NHKの朝の連続テレビ小説『まんぷく』は、ヒロイン福子を演じる安藤サクラによる、マーチ調の主題歌に沿った、林の小道や海辺での型破りだがチャーミングな動きで、毎朝始まります。
福子の夫萬平(長谷川博己)のモデルはチキンラーメンやカップヌードルを世に送り出した安藤百福ですから、彼が史実のように様々な苦難を乗り越えつつ、大きな影響を世界的に与えることとなるインスタントラーメンづくりをいつ始めるのか、多くの視聴者が注目しているでしょう。
安藤百福をモデルとした人物は、同じくNHK朝ドラ(2003年度下半期)『てるてる家族』でも中村梅雀によって演じられていましたが、彼が台湾出身であることについては、『てるてる家族』ではもちろん、主要キャストとなっている『まんぷく』においても、無視されています。百福が、戦後日本政府の決定で突然「外国人」になり苦労をしたことなどは、よく知られた逸話ながら、朝ドラでは扱いにくいのか、取り上げられません。
『まんぷく』では、彼のルーツはさておいて、安藤サクラ演じる「福ちゃん」がぞっこん惚れ込む男、「自分の才能と努力でひとびとを幸せにしたい」と語る男として登場します。
物語は、今はまだまだ戦後の混乱期。萬平たちは彼の発案で塩づくりをしていました。その後、塩づくりに加えて栄養食品の開発へと、モデルとなった安藤百福の発明人生を追う形で物語は進行しています。
楽しく見つつも、このドラマがズッポリ性別役割分業に陥っていることが、実はだんだんと気になってきています。「もらい泣き、もらい笑い」が繰り返され、他者(=萬平)を人生の柱とする主題歌の歌詞が嫌な予感を誘っていましたが、これまでのところ主題歌通り、ヒロイン福子は、萬平さんの才能と情熱に惚れ込み、彼をサポートすることが何よりも喜びだと繰り返し表明する女性です。実際彼女がすることは、萬平の仕事の「内助の功」というべき行動のみです。彼女の人生は、彼女のものというよりも、彼女が選んだ萬平さんのためのもののようにみえます。
ただ、朝ドラのヒロインは「女だてらに」何かを成し遂げる女性も多く取り上げられており、そういうパターンのみであれば、現実から乖離し、視聴者の共感も得にくいことでしょう。今期の朝ドラは、愛する夫の志や才能を支えんがために、ふんわりした優しさとともに苦労を耐える力があり、夫の事業にとってヒントとなる知恵をも持つ女性の人生を、ポジティブに明るく描くことが中心となるのでしょう。それについては納得できます。
とはいえ、今のところ、カンヌでパルムドールを受賞した『万引き家族』でその演技が絶賛された、安藤サクラの引き出しの多さを使いきれていないことが残念です。いつも、まるで判で押したような恵比寿顔のニコニコとした表情とゆっくりほんわかした話し方が続きます。こうした一本調子では、夫を支える女性の多面性や魅力を十分に描けていないと、不満を感じることも確かです。
安藤サクラがもったいないというのは、ドラマ全体の女性の描き方に関連します。ヒロインの役柄が「内助の功」タイプであることは良いとしても、
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