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[2018年 テレビベスト5]心が動きました

『弟の夫』、『ポツンと一軒家』、『まんぷく』……

青木るえか エッセイスト

ポツンと一軒家」拡大『ポツンと一軒家』(朝日放送、写真はテレビ画面から)

 2018年のテレビ番組ベスト5を発表します。というと何をもってベストというかが問われるところですが、1年にテレビ番組なんて何千と見ていて、その中で何が残るかというと、「心を動かしてくれたもの」ってことです。いい意味で動いたものばかりではない(というか悪い意味のものも多い)ですが、ほとんどの番組は動かずに流れていくだけなので、動くだけでたいしたものなのです。ということで、5番組、順不同です。

『西郷どん』(の一部分)(NHK)
 『西郷どん』というドラマが良かったとは言えない。というか、西郷隆盛について詳しく描写すればするほど、西郷隆盛は小者になっていった。西南戦争が起こる様子にしても、「そこに向かっていってしまった悲劇」というよりは、「大義名分に隠された私利私欲の爆発」で、西郷さんは「二・二六事件における安藤輝三」みたいな人か……と思わせるものがあって(ということは、いつか安藤輝三や磯部浅一を主人公にした大河をやる可能性だってあるのか……怖)気持ちは冷めるいっぽうであった。

 じゃあ何が良かったのか、といえば『西郷どん』に出てきた徳川慶喜。最近、林真理子の『正妻 慶喜と美賀子』という小説を読みましたのですが、これを読むと「林さんはほんとは西郷隆盛じゃなくて徳川慶喜の話を書きたかったんじゃなかろうか」と思わせる。慶喜、ハンサムだし。

 『西郷どん』の中の慶喜は、西郷隆盛がどんどん小者になっていったのと争うように「ワケのわからない人」になっていって、ワケがわからないから理解はできないけれど、ああこういう人おるわ、と納得はしたというか、「歴史上でその行動が謎な人物ナンバーワン」の徳川慶喜の実像に迫ってたんではないかとも思えた。たぶん林真理子の慶喜萌えがいいほうに出たんではなかろうか。慶喜については、もうこれでいい、と納得できたという点で、けっこうすごいドラマだったのかもしれない。……西郷隆盛を描くドラマでそのことはあんまり意味がないんだけど。

『弟の夫』(NHK)
 恥ずかしながら見ていて泣いてしまった。マンガが原作の、ゲイを題材にしたドラマで、こう言ってはナンだけど、原作のマンガよりもこの映像化のほうがデキがよかったと思う。

 主人公の前に突然あらわれた外国人のゲイ男性、それは死んだ弟の結婚相手だった。そのことで巻き起こるいろいろ、を描いていて、登場人物に悪い人がひとりもいない。そういうのって、マジメに見てられない絵空事になりがちなのに、そうはならず「ああ、(ゲイの)弟はパートナーの男のことをほんとうに愛していて、その男も弟のことを愛してくれていたのだなあ、よかったなあ」と思えるようなドラマだった。正直なところ、原作のマンガのほうは、ちょっと絵空事感があったので、ドラマになってそれが払拭されるってのはすごいことだ。

 男やもめの主人公が住んでいる家の、台所の様子とか、ほんとうにリアルだったし、脚本、演出、美術、音楽にわたってすべてが丁寧につくられてるのがよくわかった(こざっぱりしすぎてるような気もしたけど、それもあんまりひっかからなかった。きっと現実のリアルとドラマのリアルの違いみたいなものがわかっている作り手だったのだろう)。

 なんといっても「弟の夫」役をやった元関取の把瑠都が素晴らしかった。でも把瑠都としてもこれ以上の適役が今後の役者人生でまわってくるような気がしないので、これからたいへんかも。それでも、これほどの役と出会えたことは、役者として幸せなことだろう。

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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

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