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[2018年 展覧会ベスト5]新たな時代の流れ

「内藤礼」、「1968年」、「縄文」……

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1 「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」展(水戸芸術館)
2 「1968年 激動の時代の芸術」展(千葉市美術館)
3 「縄文 1万年の美の鼓動」展(東京国立博物館)
4 「アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960―1990年代」展(東京国立近代美術館)
5 「ルーベンス展――バロックの誕生」(国立西洋美術館)

次点:「ピエール・ボナール展」(国立新美術館)、「ルドン 秘密の花園」展(三菱一号館美術館)、「没後50年 藤田嗣治展」(東京都美術館)、「ムンク展―共鳴する魂の叫び」(東京都美術館)、「生誕150年 横山大観展」(東京国立近代美術館)
別枠:「フェルメール展」(上野の森美術館ほか巡回)

内藤礼展の第2室 拡大「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」展の第2室=水戸芸術館
 去年は千葉県にある国立歴史民俗博物館の「1968年――無数の問いの噴出の時代」展を1位に選び、今年は千葉市美術館の「1968年 激動の時代の芸術」展かと思ったが、水戸で見た「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」展のたった1人の美術家の作る世界に圧倒された。

 これほど展示空間や観客までも取り込んで、見る者に瞑想を誘う展覧会があっただろうか。屋根からの自然光だけがそそぐ会場には、テグスやガラス玉がぶら下がっていたり、床に花があったり、うっすらと花が描かれた白いキャンバスがあったり。光と影のなかにあるミニマルな物体を見ながら、生きている自分を見つめる。自然や人間存在の根源に降りていって、自らを再確認するような気分になる。

 会場を何往復も歩くうちに、「光」がすべての中心にあることがわかる。展示の後半に小さな丸く薄い紙が何枚も重ねて置いてある。そこには本当に小さな字が書かれており、窓の近くの光でかろうじて読むと「おいで」。まさに、光に誘われて行動を起こす自分を感じることができる。

 水戸芸術館の磯崎新の建築をこれほど生かした展示は初めて見た。展示空間全体が作品と言えるだろう。内藤礼の作品は20年ほど前のベネチア・ビエンナーレの日本館、数年前の東京都庭園美術館や、瀬戸内の豊島美術館(常設)で見てきたが、これほど大きな展覧会は初めて。もっともっと見たい。


筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。著書に『美術展の不都合な真実』(新潮新書)、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社新書)、訳書に『魔術師メリエス──映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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