メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[2018年 映画ベスト5]2度見た作品ばかり

『シェイプ・オブ・ウォーター』、『ROMA/ローマ』……

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督)『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督)の公式サイトより

1 『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督)
2 『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)
3 『ファントム・スレッド』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)
4 『ワンダーストラック』(トッド・ヘインズ監督)
5 『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)

次点:『BPM ビート・パー・ミニット』(ロバン・カンピヨ監督)、『スリー・ビルボード』(マーティン・マクドナー監督)、『15時17分、パリ行き』(クリント・イーストウッド監督)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(スティーブン・スピルバーグ監督)、『万引き家族』(是枝裕和監督)、『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男監督)、『孤狼の血』(白石和彌監督)、『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)、『きみの鳥はうたえる』(三宅唱監督)
特別枠:国立映画アーカイブのオープン

 今年の新聞などの映画回顧は、すべてと言っていいほど、カンヌ国際映画祭でパルムドールを取って興収45億円を超した『万引き家族』と製作費300万円の監督デビュー作で興収30億円を超えた『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)の2本を中心に語られている。確かに邦画がこれほど話題になることは珍しい。パルムドール受賞は日本人監督で21年ぶりの快挙だし、低予算のインディペンデント映画がどんどん広がったこともそれ自体はいい話だ。

 私のベスト5とその解説は、あえて映画として個人的に強く惹かれた作品を中心に書く。この5本は2度見たものばかり。まず、『シェイプ・オブ・ウォーター』は、それこそ映画の楽しみのすべてを含んだような作品だった。まず、良質のSFで、1960年代前半の研究所を舞台にそこにモンスターが飼われている設定。モンスターがCGではなく着ぐるみなのも、50年代から60年代にかけてアメリカで作られたB級SF映画へのオマージュである。

 オマージュという点では、連れ出されたモンスターを研究所の上司が追いかける姿は、40年代から50年代にかけてアメリカで作られた「フィルムノワール」を彷彿とさせる。ナレーションが最初と終わりに響くし、大半が夜を舞台に展開しているのもそれらしい。さらに主人公のイライザがモンスターと躍る白黒シーンは往年のミュージカルのよう。そして何より、この映画はモンスターと不器用な女性が愛し合う恋愛ファンタジーだった。

Netflix製作が最高賞

 『シェイプ・オブ・ウォーター』は昨年(2017年)のベネチア国際映画祭の金獅子賞だったが、『ROMA/ローマ』は今年同じ賞を取った。この映画はNetflix製作の映画が大きな映画祭で初めて最高賞を取ったことで記憶される。日本の劇場では東京国際映画祭で数回上映されたのみだが、Netflixでは公開されている。今後はこうした配信系の映画が国際映画祭や国内の賞を賑わせるだろう。映画会社で製作するのに比べて、長さや内容の自由度が高いというのは、すべての監督が口にすることだから。

 『ROMA/ローマ』はメキシコ市郊外の家族を白黒で描くが、父の失踪以外はほとんどドラマもなく、先住民のメイドから見た日常が描かれる。しかし奥にはブルジョア社会の欺瞞や男女差別、学生運動の弾圧などのテーマがぎっしり詰まっている。いくら『ゼロ・グラビティ』のキュアロン監督といえど、白黒でこの内容ではハリウッドで撮るのは無理だったろう。

 『ファントム・スレッド』は

・・・ログインして読む
(残り:約1207文字/本文:約2679文字)