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僕が「こんな夜更けにバナナかよ」を書いたワケ

反時代的ノンフィクションライター・渡辺一史さんインタビュー(上)

渡辺一史 ノンフィクションライター

受け取った「ギフト」に恩返し

――新著『なぜ人と人は支え合うのか』は、その後も渡辺さんがずっと続けてきた、さまざまな障害当事者や家族、福祉関係者への取材の蓄積を通じて、メッセージを送っています。

『なぜ人と人とは支え合うのか 「障害」から考える』(ちくまプリマー新書)拡大『なぜ人と人とは支え合うのか 「障害」から考える』(ちくまプリマー新書)
渡辺 中高生ら若い世代が、初めて障害の問題を考えるための、啓蒙書のつもりで書きました。冒頭には「なぜ障害者と会うと緊張するの?」とボールを投げ、障害という問題を通して、社会のありかたを、タテマエやキレイゴト抜きで考えてみよう、と呼びかけてみました。

――2016年に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件にも、少しふれています。全体の中では、さほど大きなボリュームではないのですね。

渡辺 もちろん、この事件は、大変ショッキングなものでした。でも個人的には、被告の生い立ちをライターとして深く取材してみたいとか、被害者の遺族を訪ねてみるとか、そういう興味の持ち方はありませんでした。むしろ、ネット掲示板から抜粋した書き込み、四つの問いのほうが気になった。

「障害者って、生きてる価値はあるんでしょうか?」
「なんで税金を重くしてまで、障害者や老人を助けなければならないのですか?」
「どうして強い人間が、弱い人間を生かすために働かなきゃならないんですか?」
「自然界は弱肉強食なのに、なぜ人間社会では、弱者を救おうとするのですか? すぐれた遺伝子が生き残るのが、自然の摂理ではないですか?」

 素朴でデリカシーのない、これらの問いに、ちゃんと答えることが僕にとってすべてじゃないかと思いました。それが事件を生んでしまった社会への反論であり、また僕が障害や福祉の世界へ足を踏み入れるきっかけになった「バナナ」の取材で得た、たくさんのものを伝えることになる、と。

 鹿野さんと、鹿野さんの関係者すべて、そしてそれ以降に出会った当事者や多くの関係者の方々から受け取った「ギフト」に、恩返しをしなきゃいけない。そう思い続けながら、できずにきたことを、今ようやくかたちにした思いではあります。

 僕自身でいえば、鹿野さんの「劇薬」に出会ってしまって以降の15年間の総決算のつもりもある。まあ、まだまだ中間決算くらいにしか、なっていないかもしれませんが。(続く)

「書きたいのは始末におえない「普通の人」 反時代的ノンフィクションライター・渡辺一史さんインタビュー(下)」は6日に公開予定です。


筆者

渡辺一史

渡辺一史(わたなべ・かずふみ ) ノンフィクションライター

1968年、名古屋市生まれ。中学から大阪府豊中市で育つ。87年、北海道大学理Ⅱ系に入学して札幌市へ。大学在学中にキャンパス雑誌を創刊し、文学部行動科学科を中退。以降、北海道内を中心にフリーライターとして活動する。著書に『こんな夜更けにバナナかよ』(北海道新聞社、のち文春文庫)、『北の無人駅から』(北海道新聞社)。最新刊に『なぜ人と人は支え合うのか――「障害」から考える』(ちくまプリマー新書)