カネの力が競争を歪めて権威主義を強める
2019年01月17日
アパレルのオンラインショッピングサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOの前澤友作社長が、自身のTwitterで100名に100万円(総額1億円)を配るお年玉企画を実施、大変大きな話題になりました。
これに対して、世間では賛否両論が激しく巻き起こりましたが、社長の名前や社名を世間に知らしめるためのマーケティング戦略の面から見れば、確かに画期的です。メディアに出稿する広告に頼るこれまでの手法ではなく、普及したSNSを通じて顧客に直接キャッシュを投じることで企画そのものを拡散させる手法が可能になってきたわけです。こうした新たな手法を見出すことは常識を追っていては出来ません。
類似のケースとして、2018年末に100億円の消費者還元を行った電子決済のPayPay(ペイペイ)のキャンペーンがあげられると思います。こちらは、ペイペイを利用して対象店舗で買い物をすると全て20%割引となり、かつ一定の確率で購入額と同額のポイントがバックされる“ガチャ”(※スマホのソーシャルゲーム等でアイテムやキャラを得るための仕組み)の要素を入れ込んだ企画を実施しました。SNSで“ガチャ”に当選した人が自主的に拡散したところ、瞬く間に話題になり、キャンペーンは僅か10日間で終了しています。
しかし、その一方で、反対派が前澤氏のやり方に対して否定的な見解を持つのも頷けます。今回は2つの点からこの企画の問題を指摘したいと思います。
まず、健全な市場競争という観点から考えると、現金バラマキ型のマーケティング手法は、「より良いサービスを消費者に提供した企業が勝ち、顧客価値を高められなかった企業は市場から退場を迫られる」という本来の市場競争とは相容れない部分があります。
インターネット上の発言力に関しても同様で、人々の共感を呼ぶ発言やその面白さによりフォロワー数が増えるという仕組みは非常に「実力主義」的です。お金が無くとも実力次第で有名になれるわけですが、それがコンテンツの実力とは無関係の資金力という「既得権益力」に強く影響を受けるようになれば、実力主義というSNSの競争システムが大きく歪みます。
まだ序章に過ぎませんが、この後も同様の手法が定着し、バラマキ型マーケティングに莫大な予算を割けるような資本力の大きい資産家や企業が市場経済やネット上の発言権獲得競争で勝つのが必然になれば、「既に強い者が常に勝つ世界」に逆戻りです。これは現行の独占禁止法が想定している範疇を超えていますが、そうした企業が寡占を目的に実施したり、新規参入障壁を不当に築くために行われる可能性がないわけではありません。
このように、ミクロ経済的に優れている手法であっても、それがマクロ経済的に優れているかは別問題です。たとえば、GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)が素晴らしいサービスを提供する企業であるという評価は揺るがないと思うのですが、昨今は欧州を中心にその独占力を問題として取り上げざるを得なくなっているのも、似たような観点からでしょう。
ミクロ経済的視点しか持ち合わせていない人たちは、「誰も損していないのに批判をするなんておかしい!」と思うかもしれませんが、潜在的に損する人がいることをマクロ経済的に考えると、決して手放しで称賛するべきことではないことがよく分かるはずです。
経済的な観点に限らず、社会的な視点からも問題がないわけではないと思います。クラウドファンディングサイトの「CAMPFIRE」等を経営する家入一真氏は、Twitterでこの件について、「(リツイートした)400万人近くが金持ち批判を出来なくなりましたね」と述べています。いわゆる「ポトラッチ(※自分の地位を誇示し確固としたものにするため富を積極的に分配する北太平洋沿岸のアメリカ先住民の古い儀礼)」だという指摘でしょう。
「子供に飴をあげる誘拐犯」に限った話ではなく、
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