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「新派」がますます「新派」になって面白い!

ペリー荻野 時代劇研究家

劇団新派公式サイトより劇団新派公式サイトより

 「新派」は、やっぱり「新派」だった。……って、何を言ってるんだと思われそうだが、実際、そうなのである。

 「新派」といえば、創始130年の歴史を持つ、日本を代表する劇団である。女形とともに初代・水谷八重子をはじめ、女優陣の活躍も華々しく、泉鏡花、樋口一葉、川口松太郎らの作品を積極的に上演。花柳界を舞台にした女性たちの恋と意地、義理人情を大切にする家族のふれあいなど、その時代を生きる日本人を描き続けてきた。

 昭和30年代に生まれた筆者も、こども時代、新派の舞台を見たこともなかったのに、「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉」(これは正確なセリフではありませんが)などの名セリフが新派の芝居(『婦系図』湯島天神の場)から生まれたらしいということは知っていた。新派はおとなの色恋を理解できないと見てはいけない劇団なのだと思い込んでもいた。

 そして、無事におとなになって(?)新派デビューを果たし、実際に目の前で新派の定番劇を見てみると、想像以上に激しく、驚くことが多かった。

 たとえば、昭和10年(1935)初演の「明治一代女」は、売り出し中の歌舞伎俳優沢村仙枝に惚れ込んだ芸者お梅が、彼の襲名披露の費用を工面するために、自分を一途に慕う箱屋の巳之吉と結婚する約束をして金を手に入れることから起きた悲劇。田舎の田畑を売り払って金を用立てた巳之吉との約束と仙枝への思いの板挟みから、お梅はついに殺人を犯してしまうのである。ジャジャジャーン!! 当時、テレビで人気を集めていた2時間ドラマのテーマが頭の中で鳴り響くほど、びっくりの展開。これが明治時代に実際に起きた事件を基にしていることにも二度びっくり。そして、川口松太郎の筆により、痴情のもつれというだけでなく、芸者、役者の立場や流儀、時代の空気もくっきりと描かれる奥深さに三度びっくりだった。

「黒蜥蜴」「犬神家の一族」にびっくり

 そんなわけで約30年、機会があるごとに新派の舞台を見てきたが、ここへきてまた、新派にびっくりが続いている。

 その始まりは、2017年に初演された江戸川乱歩の「黒蜥蜴」だ。

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