福嶋聡(ふくしま・あきら) MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店
1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店、難波店店長などを経て、現在、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店に勤務。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
百田尚樹の『日本国紀』(幻冬舎)は発売後すぐにベストセラーとなり、その後もどんどん売上を伸ばし、増刷を繰り返していった。1月半ば時点で、8刷60万部まで伸びる。
出版・書店業界の人間にとって、このことは不思議でもなんでもない。「予想通り」「期待通り」であり、全国の書店は、大量の事前発注と追加注文をしたと思う。
すぐに3つの理由を挙げることができる。
第一に、百田尚樹は「ベストセラー作家」である。『永遠の0』(講談社)は文庫だけで440万部、『海賊とよばれた男』(講談社)は、単行本は190万部、文庫は250万部超まで伸びた(共に上下巻合計)。後に批判された『殉愛』(幻冬舎)も、売れ行きの最大瞬間風速は凄かった。
第二に、歴史関係の本が現在またブームになっている。『応仁の乱――戦国時代を生んだ大乱』(呉座勇一著、中公新書)は2016年刊行、2017年にベストセラーに躍り出て、現在33刷、発行部数47万5000部を数えている。他にも、かつて『武士の家計簿――「加賀藩御算用者」の幕末維新』(2003年、新潮新書)がベストセラーとなった磯田道史や『江戸お留守居役の日記――寛永期の萩藩邸』(1991年、読売新聞社、日本エッセイストクラブ賞受賞)の山本博文ら人気歴史家が、新書版を中心に続々と新著を刊行している。
今日の歴史ブームは、日本社会の高齢化とも関係していると思う。退職後の人生は、20年〜30年もある。『史疑 幻の家康論』(批評社)、『サンカと説教強盗――闇と漂泊の民俗史』(河出文庫)など多くの著書がある在野史家礫川全次(こいしかわぜんじ)は、その年月を歴史の独学に当てることを勧めている。
歴史というのは、誰もが気軽に始められる学問です。これを研究するに当たって、特殊な知識・技術・才能などは必要ありません。(『独学で歴史家になる方法』日本実業出版社)
多くの人は、学校で一度は歴史を学んだことがある。「応仁の乱」は、戦国時代の到来を準備したとはいえ、事件としては地味で、その実態もおそらくは詳しく学ばなかっただろうが、歴史用語としては記憶の片隅に残っているだろう。現在の高齢者が現役の頃、日本経済が右肩上がりを続けていた時期、ビジネス街の書店で数学の入門書が次々とベストセラーになった時も、同じような理由を感じた。