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百田尚樹『日本国紀』は歴史書ではなく「物語」 

福嶋聡 ジュンク堂書店難波店店長

「すじみちをたてて」記した書

 一方、『日本国紀』の読者は、リタイアした高齢者だけではない。発売以来、多くの若い人が買い求める姿を、ぼくは見ている。この本があらゆる年齢層に読まれているのは、なぜか? 『日本国紀』の最初に、その答えはある。

日本ほど素晴らしい歴史を持っている国はありません。(P2、引用は第4刷。以下同様)

 この一文は、確かに、その経済的隆盛に影が差し、かつては謳歌した世界での高い地位が失われていくことが否めない時代を迎えたこの国の多くの人々に快感を、満足を与えることは間違いない。このことが、多くの読者が『日本国紀』を手にし、この本がベストセラーになっている、3つめにして最も本質的な理由である。昨年、ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と朝鮮人の悲劇』(講談社+α新書)が版を重ね、47万部に達したように。

「K・ギルバート氏の本で心地よくなってはならない」

 この本のタイトル『日本国紀』には、「紀」という文字が使われている。「紀」は、「記」と違って、単なる記録ではなく、「すじみちをたてて記したもの」という意味を含む(岩波国語辞典、第7版)。その「すじみち」こそ、「日本ほど素晴らしい歴史を持っている国はありません」という百田の信念なのである。

 また、「紀」は、「古事記」の「記」に対して「日本書紀」の「紀」である。「紀」は、「日本書紀」が範とする中国の史書では、英雄譚である「列伝」に対する天子=支配者の事績をしるした「本紀」の「紀」である。日本が「素晴らしい歴史を持っている」理由は、

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筆者

福嶋聡

福嶋聡(ふくしま・あきら) ジュンク堂書店難波店店長

1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店などを経て、現在、難波店店長。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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