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月イチ八百回 独演会を続行中の真打ち春雨や雷蔵

トーキョー落語かいわい【1】一度も休まずこの夏400回に。 達成時は101歳!

鶴田智 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

人生100年時代を先取りしたチャレンジ

 さて、前置きはこれぐらいにして、本題に入りましょう。今日、お話したいのは、毎月1回の独演会を、なんと800回、続けようというとんでもない落語家についてです。

ビルの1階にあるお江戸日本橋亭にお客さんが次々と入ってくる=2019年1月17日、東京都中央区日本橋本町(筆者撮影)拡大日が暮れて、ビル1階のお江戸日本橋亭には、客が次々とやってくる=2019年1月17日、東京都中央区日本橋本町(筆者撮影)
 単純に計算して、66年もかかろうかという超ロングラン企画。「しゃれ」と思いきや、その人、春雨や雷蔵(68)はいたってまじめ。1986年のスタートから33年間。一度も休まず続けて、ついにこの夏、折り返しの400回を迎えようとしています。まさに「人生100年時代」を先取りしたかのようなチャレンジです。

 数多くの落語会の中で、年明け間もない1月17日、筆者は、東京・日本橋で開かれた落語会「雷蔵八百夜」を訪ねました。今年芸歴51年のベテラン真打ち雷蔵の独演会です。

 800回の独演会を今のペースで進めると、終わるのは2052年。その時、雷蔵は101歳。本人は「どこまでできるかわからないですが、100歳と言ったって今はそんなにびっくりしないですよ」と笑います。

ビル1階の演芸場に鳴り響く一番太鼓

 会場は「お江戸日本橋亭」。仕事帰りの勤め人で混雑した地下鉄銀座線三越前駅で降り、日暮れのビル街を歩いて数分のところにあります。ビルの1階、軒下の提灯が目印です。ここは、いわゆる定席の寄席ではありませんが、様々な落語会が開かれている演芸場です。

お江戸日本橋亭の客席。開演を前に次第に埋まってきた=2019年1月17日、東京都中央区日本橋本町(筆者撮影)拡大お江戸日本橋亭の客席。開演を前に次第に埋まってきた=2019年1月17日、東京都中央区日本橋本町(筆者撮影)
 今年最初の「八百夜」は通算394夜目。午後6時ごろ、開場を知らせる一番太鼓が鳴りました。打っているのは若い前座の落語家。雷蔵の弟子です。入口では、この前座さんが受付をしていました。

 料金を払って入場。靴を脱ぎ、スリッパにはき替えて客席へ。常連さんを含め客が次々とやって来て、70ある席がどんどん埋まっていきます。6時45分幕開け。弟子2人の高座に続いて、いよいよ雷蔵が登場すると、客席から一段と大きな拍手が送られました。

 最初の演目は「金明竹(きんめいちく)」です。おじの骨董(こっとう)屋に世話になっている与太郎と来客らの珍妙なやり取りで笑わせ、さらに専門用語をまじえて骨董品の説明をする上方弁の男と与太郎、おかみさんのやり取りで会場を沸かせました。

 短い仲入り(休憩)に続いて、今度は大ネタ「明烏(あけがらす)」を口演。町内の遊び人らしい2人が、うぶでとっても真面目な若旦那を遊郭の吉原に連れて行き、一騒動巻き起こります。広い廊下など、当時の郭(くるわ)の大店の豪華な様子も織り込まれます。やがて泣き出して帰りたがる若旦那。引き留める周囲。雷蔵の熱演に会場は引き込まれ、笑いに包まれました。

 この日の終演は8時15分。女性のお客さんから「情景がよく出てるわあ」「いろっぽい噺(はなし)ねえ」といった声が聞こえてきました。


筆者

鶴田智

鶴田智(つるた・さとし) 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

1984年朝日新聞社入社。地域面編集センター次長、CSR推進部企画委員、「声」欄デスク、校閲センター記者を務める。古典芸能にひかれ、歌舞伎はよく観劇、落語は面白そうだと思えばできるだけ見に行く。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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