2019年02月13日
日清食品のCMアニメで、大坂なおみ選手を白人のように描いたことを「ホワイトウォッシュではないか?」と最初に問題視したのは、欧米のメディアと、日本在住のアメリカ人作家バイエ・マクニール氏であった。その一方、国内からは、さほどの拒絶や批判の声は上がらなかった。この温度差はどこから来るのであろうか。
今回、日清がCMを削除したときに多く聞かれた日本人の意見「そんなにこだわらなくても良いのでは?」――これは、映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)で、主人公(原作マンガでは草薙素子)をミラ・キリアンと改名して白人女優スカーレット・ヨハンソンが演じたときと同じだ。多くの日本人は、日本版アニメ映画『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』(1995)の押井守監督をはじめ、「気にならない」という態度であった。一方、欧米、特にアメリカのメディアは、ホワイトウォッシュという「やってはならないこと」をしたと批判したのである。
本稿では、改めて「ホワイトウォッシュ」とはどういう意味で、その目的と効果は何か、日本とアメリカでの認識の違いはどこからくるのかについて考えてみたい。
ホワイトウォッシュ(whitewash)とはもともと「白漆喰(しっくい)を塗って見た目を白くする」という意味である(汚れたものを洗って白くする、という意味はない)。転じて、写真、ポスター、雑誌のグラビアなどで、フォトショップを用いて人物の肌色を明るめに調整することや、映画において、本来(原作小説などで)非白人だった登場人物を白人俳優が演じることを意味する。
写真におけるホワイトウォッシュで興味深い例を紹介しよう。
同じ有名人の黒人でも、肌色を白く修整するのはビヨンセ(2008年にロレアルの広告写真が英『ガーディアン』紙で批判された例が有名)、リアーナ、ガボレイ・シディベなど女性であり、逆に黒っぽく修整されたのは、アメリカのオバマ前大統領、タイガー・ウッズ(白人女性とのスキャンダルで報道されたプロゴルファー)、O.J.シンプソン(白人女性の妻殺害容疑で逮捕されたプロアメリカンフットボール選手)など、男性ということだ(詳しくはRussell, “Trading Races” p.275)。
このことが示唆するのは、女性は白いほど美しいという通念がある一方、黒人は黒いほど野卑との偏見があり、大統領もスポーツヒーローも「(肌の黒い黒人は)所詮は野蛮人だ」、との演出をしているということだ。
このような手の込んだ例とは別に、何気なくなされたかのようなホワイトウォッシュ写真も多い。
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