赤尾千波(あかお・ちなみ) 富山大学人文学部人文学科教授(アメリカ文学・文化専攻)
津田塾大学学芸学部英文学科卒。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科、インディアナ大学大学院を経て、筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科途中退学。岐阜大学教育学部助手を経て現職。著書に『アメリカ映画に見る黒人ステレオタイプ――『国民の創生』から『アバター』まで』(富山大学出版会)など。 研究室HP、 アメリカ映画に見る黒人ステレオタイプ』関連資料
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
日清食品のCMアニメで、大坂なおみ選手を白人のように描いたことを「ホワイトウォッシュではないか?」と最初に問題視したのは、欧米のメディアと、日本在住のアメリカ人作家バイエ・マクニール氏であった。その一方、国内からは、さほどの拒絶や批判の声は上がらなかった。この温度差はどこから来るのであろうか。
今回、日清がCMを削除したときに多く聞かれた日本人の意見「そんなにこだわらなくても良いのでは?」――これは、映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)で、主人公(原作マンガでは草薙素子)をミラ・キリアンと改名して白人女優スカーレット・ヨハンソンが演じたときと同じだ。多くの日本人は、日本版アニメ映画『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』(1995)の押井守監督をはじめ、「気にならない」という態度であった。一方、欧米、特にアメリカのメディアは、ホワイトウォッシュという「やってはならないこと」をしたと批判したのである。
本稿では、改めて「ホワイトウォッシュ」とはどういう意味で、その目的と効果は何か、日本とアメリカでの認識の違いはどこからくるのかについて考えてみたい。
ホワイトウォッシュ(whitewash)とはもともと「白漆喰(しっくい)を塗って見た目を白くする」という意味である(汚れたものを洗って白くする、という意味はない)。転じて、写真、ポスター、雑誌のグラビアなどで、フォトショップを用いて人物の肌色を明るめに調整することや、映画において、本来(原作小説などで)非白人だった登場人物を白人俳優が演じることを意味する。