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『なのはな』原作・萩尾望都&演出・倉田淳/上

東日本大震災の直後に発表、哀しみの浄化と希望が溢れる作品

真名子陽子 ライター、エディター


拡大萩尾望都(右)と倉田淳=岩田えり撮影

 27日からStudio Life公演『なのはな』が開幕する(3月10日まで、東京・東京芸術劇場シアターウエスト、4月12・13日大阪・ABCホール)。原作・萩尾望都と演出・倉田淳の対談インタビューを行った。

 『なのはな』は2011年8月号の「flowers」で発表。3・11に起きた東日本大震災の直後で、津波や福島第一原子力発電所の事故により多くの人の運命が変わってしまったことに心を動かされ、その人たちに想いを寄せて描かれた作品。ナホという多感な少女を軸に、忘れてしまいたい現実と向き合った時、事の厳しさや重みとともに、限りない哀しみの浄化と希望が溢れてくる。

 この作品を描いた理由や舞台化する理由、劇中でも歌われる「アララソング」や登場人物についてそれぞれの想いを語ってくれた。

作品を創る気力がさーーっと引いていった

――東日本大震災後、すぐに『なのはな』を描かれました。その理由は何だったんでしょうか?

萩尾:地震があった時は埼玉に居ました。かなり揺れましたので東京かなと思ったら福島でした。テレビから流れてくる映像を見て、大変なことが起こっていると思っていたら、原発事故が起こりました。一瞬煙が上がったのを見て、チェルノブイリで起きたことが日本で起こるなんてどうしよう……これから大変なことが起こると。毎日、放射線量が発表されて、作品を創る気力がさーーっと引いていきました。

――そうだったんですね。

萩尾:でも、友人からこういう時期だからこそ明るいことをしよう、お花見をするからと誘われて、少しでも気落ちを明るくしなきゃと思いお花見へ行きました。その時に、チェルノブイリでは汚染された土壌を改良するために、なのはなや麦、ヒマワリを植えて土壌を改良していると聞いて、希望が見えたんです。そこから、いろいろ調べましたら、福島ではすでにそういった計画が出ていて、前向きにこれからのことを考えられていることがわかりました。

――それでこの作品を描かれたんですね。

萩尾:私自身、被害にはあっていませんが、この気持ちはなんとかしなきゃと思い描きました。自分だけのことで言えば、その気持ちを浄化したいという思いもありました。編集部にこういう内容の作品を描きたいと言ったら、良いですよと言ってくださったので、勢いのまま描いた作品です。でも、あの渦中にいたら描けなかったと思います。少し離れていたから描けたのだと思いますね。

芝居にするのは大変だけど、なんとか希望にたどり着きたい

拡大萩尾望都=岩田えり撮影

――その作品を倉田さんが舞台化しようと思われたのは?

倉田:最初読んだ時に切ない思いが胸に迫りまして、最後の種まき器でなのはなを植えるナホちゃんの想いに、心を揺さぶられました。作品を発表された時に舞台化したいと思ったのですが、その資格があるのかとずっと考えていました。当時、募金箱に幾ばくかの寄付をさせていただくことしかできなくて、果たしてこの作品をやらせていただいて良いのかと、ずっとずっと思っていました。

――あれから8年ですね。

倉田:時が経って、このままではいけないと思ったんです。日に日に忘れていくんですね。いろんなことが起こりますから、どうしても置き去りにされてしまう。その中で今の自分ができることは芝居だと思い、思い切って舞台化させていただこうと思いました。せめて、忘れないでいるために……。まだまだ片付いていないですし、忘れないことは大事なことではないかと決心がつきました。登場人物の想いを一つずつ大切に大切に汲ませていただいて、表現に結び付けていきたいなと思います。そして、最後のなのはなの場面の浄化と希望へ繋いでいくことが、舞台化させていただくことの使命だと思っています。良い舞台にしたいなとしみじみ思っています。

――倉田さんが思うこの作品の魅力をひと言で言うと?

倉田:スローガンを声高に強く訴えるのではなく、ヒシヒシと痛みが切なさとして迫って来ます。その先に、“なのはな”という希望があるので、たった24ページと言えないものすごい分量の想いが詰まっていると思います。

萩尾:そう感じていただけるとうれしいです。

倉田:芝居にするというのは大変なんですけど(笑)。なんとか希望にたどり着きたいと思っています。

◆公演情報◆
Studio Life『なのはな』
2019年2月27日(水)~3月10日(日) 東京・東京芸術劇場シアターウエスト
2019年4月12日(金)~4月13日(土) 大阪・ABCホール
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:萩尾望都
脚本・演出:倉田淳
[出演]
船戸慎士、仲原裕之、関戸博一、松本慎也、宇佐見輝、若林健吾、千葉健玖、牛島祥太、伊藤清之、鈴木宏明/明石隼汰(客演)/倉本徹、藤原啓児
〈萩尾望都プロフィル〉
福岡県生まれ。代表作は『トーマの心臓』『11人いる』『ポーの一族』『残酷な神が支配する』『イグアナの娘』『なのはな』『王妃マルゴ』など。作品のジャンルはSF・ファンタジー、ミステリー、ラブコメディ、バレエもの、心理サスペンスものなど幅広い分野にわたり、「少女漫画の神様」とも評されている。小学館漫画賞、星雲賞コミック部門、手塚治虫文化賞優秀賞を受賞するなど、数々の受賞歴があるほか、2012年には少女漫画家では初となる紫綬褒章を受章、2017年には朝日賞を受賞している。
〈倉田淳プロフィル〉
東京都出身。1976年、演劇集団「円」演劇研究所に入所。第1期生。芥川比呂志に師事。氏の亡くなる1981年まで演出助手をつとめた。1985年、河内喜一朗と共にスタジオライフ結成、現在に至る。劇団活動の他、1994年より西武百貨店船橋コミュニティ・カレッジの演劇コースの講師を務めた。また英国の演劇事情にも通じており、その方面での執筆、コーディネーターも行っている。

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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