徳留絹枝(とくどめ・きぬえ) ブログ「ユダヤ人と日本:理解と友情の架け橋のために」管理者
シカゴ大学で国際関係論修士号取得。サイモン・ウィーゼンタール・センターのアドバイザー。著書に『旧アメリカ兵捕虜との和解:もうひとつの日米戦史』、『忘れない勇気』、『命のパスポート』(エブラハム・クーパー師と共著)など。日本で知られないイスラエルの横顔に関する本を執筆中。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
イスラエルNGO「Budo for Peace」ダニー・ハキム氏の夢
ハキム氏にとって、“武道”の文字を自らのNGOの名前に使うことは重要なことだった。その意味を彼は以下のように説明している。
“武道”という言葉は、“武”(戦士)と“道”(進むべき道)から成り、対立を平和的手段・強い意思・自己抑制・相互尊敬で解決するための、行動規範を表わす日本語。
それは、日本で空手の修行に励む中で彼自身が身に付けた日本武道精神の神髄だった。
シンボルマークにも重要なメッセージが込められている。ハキム氏はそれを丁寧に説明してくれた。
「それは石と水を表わしています。心臓に近い左手の握り拳は、家族や価値観や宗教といったあなたにとって大切なものを象徴していて、それは石のように硬くなくてはなりません。一方それを覆う右手は水を象徴しています。人間は頑ななだけでなく、体も心も水のように柔軟でなければならないからです。右手が開かれた時には、友情の握手にも使われます。中身は石のように強く表面は水のように柔軟であれ、というこのシンボルは子供にも理解しやすいものです」
シンボルを囲む「BUDO FOR PEACE」の文字も、英語・ヘブライ語・アラビア語で表記されている。
ハキム氏のシオニストとしての夢は、イスラエルの全ての子供たちが平和裏に暮らせる社会の実現だという。彼は、多くの移民からなるオーストラリアの空手チームの一員だった頃、そして日本で空手の修行中、異なる人々と共に練習に励みながら、武道を通して得られる一体感を経験している。イスラエル社会の異なるグループ(正統派ユダヤ系・世俗派ユダヤ系・アラブ系・ドルーズ派・ベドウィン族など)間の融合を目指すことに、彼の迷いはなかった。
現在BFPは、国内18の道場と27の気合道場と呼ばれる提携ジムで、さまざまに異なるバックグラウンドの子供たち2000人以上に武道を指導している。ユダヤ系の道場とアラブ系の道場がペアとなり、合同練習をすることもあるという。たった10分しか離れていないユダヤ系とアラブ系の村に住みながらそれまで全く交流がなかった子供たちが、空手の練習を通し、お互いの家族も含めて親しくなった例もあるという。BFPは、新しくイスラエルにやってきたばかりの移民の子供たちにも手を差し伸べている。
ハキム氏はさらに、イスラエルの近隣諸国の空手家に呼びかけることで、Budo for Peaceの活動を国際的にも広めてきた。これまでヨルダン・エジプト・トルコ・イラン・ギリシャ・パレスチナ自治区の空手家がBFPのセミナーに参加しているという。2016年にBFPが国際大会を開いた際には当時の富田浩司在イスラエル大使が、自己抑制・礼儀・他者への思いやりといった日本の武道の精神を通して若者に尊敬と相互理解を教えるプログラムを称えた。
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