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築地市場の「のれん」で小池都知事と闘う人々

永尾俊彦 ルポライター

東日本大震災で液状化した豊洲新市場予定地/2011年3月14日拡大東日本大震災で液状化した豊洲新市場予定地=2011年3月14日 撮影・筆者

仲卸や都民についた知事の「大嘘」

 当選後、小池知事が進めた情報公開がきっかけになって、豊洲の主要な建物下にベンゼンなどの有害物質の揮発を抑えるための「盛り土」がないことが発覚したり、都が地下水調査の際に環境基準を超えた試料の再採水などを調査会社に命じるインチキをしていたことも明るみに出た。

 また、石原慎太郎知事の時代に、当時の濱渦武生(はまうず・たけお)副知事を使って東京ガスの行う土壌汚染対策の範囲を限定する「密約」を結んでいたことや、汚染された豊洲を汚染なしの価格で買ったことなども明らかになった。

 小池知事は次々に功績をあげた。

築地市場を視察する小池百合子都知事/2017年1月12日拡大築地市場を視察する小池百合子都知事=2017年1月12日 撮影・筆者
 2017年2月、築地市場で働く女性でつくる「築地女将(おかみ)さん会」(山口タイ会長)が豊洲移転中止の請願署名を集めた。築地の水産仲卸553軒のうち393軒(71%)が署名した。築地で働く人々の大半は築地で続けたいという意思が明白になった。

 同年3月、小池知事が発足させた「市場問題プロジェクトチーム」の座長で知事側近の小島敏郎青山学院大学教授(当時)が、築地市場講堂に仲卸らを集め、築地再整備は「できます」と断言した。涙を流して喜ぶ人もいた。小池知事も2008年に出した共著『東京WOMEN大作戦』(小学館)で、築地再整備を主張していた。

 6月13日、「市場問題プロジェクトチーム」は報告書をまとめ、築地再整備は技術的に可能で経営上も豊洲移転より有利だと示した。

 「小池知事はきっと移転を中止してくれる」と村木さんらの期待は一層高まった。

 しかし、6月20日、小池知事が出した答えは「築地は守る、豊洲を活かす」という併用案だった。

 築地は「5年後を目途にして再開発」し、「食のテーマパーク機能を有する新たな市場」にし、復帰したい仲卸の支援もすると約束したが、中央卸売市場は豊洲に移すとされた。

 「併用案」を歓迎した仲卸も少なからずいた。2006年くらいから豊洲移転の反対運動を続けてきたあるマグロ仲卸は、「運動が実った。これで日本の魚食文化が守られる。人間希望がなくちゃいけねーよ。豊洲で5年辛抱すれば帰ってこれるんだから」と話した。

 だが、併用案は、村木さんにとっては、翌7月2日に迫った都議選を目前に控え、「票欲しさ」に築地再整備を主張する仲卸らにも豊洲移転を主張する卸業界幹部や公明党にも「いい顔」をする決断に見えた。

 しかし、村木さんは「男が一度決めたことを簡単に変えちゃいけない」と小池知事を信じようと思った。

 「併用案」は見事図に当たり、知事率いる都民ファーストの会は都議選で圧勝した。

 勢いに乗る小池知事は、2017年10月の衆院選では「希望の党」を結成、国政にも意欲を見せたが、例の「排除」発言で失速、大敗した。

 その後、小池知事は「築地は守る」をなし崩しにし始める。築地市場をどう残すか語らなくなった。それを見て、村木さんは「やっぱり小池知事にとって『築地は守る』は選挙に勝つ手段にすぎなかったんだ」とだまされたことに気づく。そして、衆院選の大敗は小池知事に下された「天罰だった」と思った。

 今年1月23日に発表された「築地まちづくり方針」の素案では、築地市場跡地は国際会議場を核にして再開発するとされた。カジノの誘致も取りざたされている。

 私は小池知事に「知事は仲卸業者や都民に『嘘』をついたことになるが、どう考えますか」という質問状を送った。知事の答えは、築地について「地域のポテンシャルを生かしつつ、新たな東京ブランドを創造・発信する」などと述べるだけで、「嘘」をついたことへの釈明はなかった。

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筆者

永尾俊彦

永尾俊彦(ながお・としひこ) ルポライター

1957年、東京都生まれ。毎日新聞記者を経てルポライター。1997年の諫早湾の閉め切りから諫早湾干拓事業を継続的に取材。主な著書に『ルポ 諫早の叫び――よみがえれ干潟ともやいの心』(岩波書店)、『ルポ どうなる? どうする? 築地市場――みんなの市場をつくる』(岩波ブックレット)、『国家と石綿――ルポ・アスベスト被害者「息ほしき人々」の闘い』(現代書館)など。