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新井浩文被告は大バカ者。だけど、切なくて

矢部万紀子 コラムニスト

酒呑みの明るさの裏側に…

番組収録でゲストの山本浩司さん(左)と話す新井浩文さん(左から2人目)=富山市内幸町2017年拡大テレビ番組「美しき酒呑みたち」(BSフジ)の収録で(左から2人目)=2017年、富山市

 彼の逮捕はショックだった。出張マッサージの女性に性的暴行を加えたという容疑のひどさはもちろんだが、その時に飲酒していたという事実が痛かった。

 「美しき酒呑みたち」というBSフジの番組があり、彼は「ナビゲーター」として全国の酒場を訪ね、本気で呑んでいた。そして本気で酔っ払う。いつも楽しげで、明るい酒好きだとばかり思っていた。

 それなのに、飲んだ挙句の性的暴行容疑。ひどすぎる。暗すぎる。

 色気があって孤独そうで、凄みと軽みもある。そんな役者としての彼にひかれ、出演するテレビ番組はかなり見ていた。「美しき酒呑みたち」もその一つで、あそこで見せていた姿が嘘だったとは思わない。だがあの明るさの裏側に、どうしようもない暗さがあった。それを知らされたようで、痛かった。

 今、新井被告の過去のドラマやこれから公開されるはずだった映画が、次々とお蔵入りになっている。朝日新聞は2月9日、「出演作お蔵入り、行き過ぎ?」という記事を掲載、NHKが11作、フジテレビが7作、過去の出演作を配信停止にし、Hulu、ネットフリックスは過去の映画やドラマの配信を継続したと報じていた。

 そこでネット配信のメディアをチェックしところ、彼の出演した映画がたくさんあった。そのうちの1作、『百円の恋』(2014年)を視聴した。主演の安藤サクラが数々の賞を受賞した作品で、彼は相手役。カッコいいんだけどカッコ悪い、元ボクサーを演じていた。

 15年前の「プライド」ではチョイ役だった。それから10年、彼は安藤という若き名女優を包み込むような芝居をしていた。気づけば泣けてくる。そんな演技だった。

映画「善悪の屑(くず)」は公開中止に=日活公式HPから拡大新井浩文主演の映画『善悪の屑』の公開中止を伝える日活公式サイト
 新井被告は、大バカだと思う。こんな良い芝居をするのに、今年公開予定だった主演映画『善悪の屑』は中止になり、主演でない映画『台風家族』も6月の公開予定が延期になってしまった。

 立川志らくは映画を愛する落語家だ。だから2月10日の「ワイドナショー」(フジテレビ系)で彼の事件が取り上げられた時、出演映画は上映してほしいという希望を語っていた。皆が一生懸命作ったものを「この男」のためにお蔵入りさせるのはたまらない、と。

 同時に彼を「もう復活できないでしょうね」とも言っていた。悪人の役をすれば「こういうことするヤツ」と見られ、善人の役をすれば「嘘だ」と見られる。そういうイメージがついてしまった以上、復帰は難しい。そういう趣旨だった。

 すごく冷静な分析で、彼が起訴された今となっては、「その通り」としか言いようがない。彼の所属事務所は2月5日で彼を契約解除した。ネット時代に散々批判されている彼を、起訴か不起訴かを見極めることなど無理だったろう。仮に裁判で無罪になったとしても、たぶん彼の「退場」は解けないだろう。

 女性を傷つけた代償。身から出た錆。それはわかっている。

 だが、個人的な気持ちを吐露するなら、切なくてならない。彼をもう見られない。その残念さはもちろんあるが、それだけではないというか、それ以上の切なさというか、何か割り切れない思いを感じ、苛まれていた。

安藤サクラさん(中央)と新井浩文さん(右から2人目)=周南市の徳山動物園 2014年拡大映画『百円の恋』の撮影現場で安藤サクラさんと新井浩文被告(右)=2014年、周南市の徳山動物園

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。

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