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ノーベル平和賞にトランプを推薦した安倍氏の茶番

首相自身が南北会談実現を主導すべきだ

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

ノーベル平和賞にトランプを推薦した安倍氏の茶番拡大トランプ米大統領をノーベル平和賞に推薦した安倍首相の「政治家力」とは?

 報道によれば、安倍首相が米政府関係者の非公式の依頼を受けて、トランプ米大統領をノーベル平和賞選考委員に推薦したという(朝日新聞2019年2月17日、2月20日付)。

ノーベル平和賞に時にひそむ政治性

 これが本当なら、日本国民として恥ずかしいとしか言いようがないが、一面では、「権威」あるノーベル(平和)賞にさえひそみうる政治性をかいま見させた点で、よかったと評価すべきか。

 すでに、キッシンジャー元米国務長官(1973年)や佐藤栄作元首相(1974年)が受賞して、ノーベル平和賞は相当に価値を落とした事実がある。

 キッシンジャー元米国務長官はベトナム戦争終結へ向けた流れを作ったとはいえ、そもそもアメリカ政府が「自作自演」したトンキン湾事件(1964年)以来、一方的な「北爆」がベトナム戦争を本格化させたのである。佐藤栄作元首相の場合は、「非核3原則」を無にする方向で動いていたのに、選考委員会は「非核3原則」の推進ゆえに同氏に賞を与えた。

 こんな不名誉な授賞があるというのに、今度はトランプ・安倍コンビによってその二の舞いが演ぜられるのだろうか。

 総じて「絶対的権威」の価値が相対化されること自体は、一般論としてむしろ望ましい。今回もノーベル賞全般に対してそうした目が育つなら幸いである。だが近年、ノーベル平和賞は、非常に重要な活動を行っている個人・団体に与えられてきただけに、やはりこんな形でその権威が下がるのは残念だと言わなければならない。

 近々マララ・ユスフザイさんが初来日して講演を行うが、彼女が見せたパキスタンに残る因習に対する徒手空拳のたたかいや、性犯罪被害者への日の当たらない地道な支援を行う運動家・被害者等に賞を与えた選考委員会の姿勢は大いに評価できる。一昨年(2017年)のICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)に対する授賞も、すでに10年近く前となるが、中国の民主化運動の活動家・劉暁波(リュウ・シャオポウ)に対する授賞もそうである。権力をもたない者(時に被害者)が、生身の体をさらして、現状と素手でたたかおうとする行動は、非常にとうとい。

 だが、権力者が強大な権力を用いて行った外交を評価するにあたっては、その暗部をふくめて慎重に判断されるべきだ。トランプ氏が、移民排斥にまい進し、INF(中距離核ミサイル)全廃条約の廃棄を公言し、非常事態宣言まで出して米民主主義の伝統にくさびを打つようなことを平気でするとき、安倍首相の推薦は単にバカげているばかりか、世界の平和にとって危険でさえある。

 ノーベル平和賞は、受賞が決まると(トランプ氏の受賞はありえないと思うが)、受賞者の見えざる素顔・背景が明らかになっても授賞を取り消すという伝統が選考委員会にないだけに、ひとたびトランプ氏への授賞を決めたら、とりかえしのつかないことになる。こんなことで、ノーベル平和賞を汚してはならない。

 もっとも、そもそも、「ノーベル平和賞」自体が大きな矛盾をかかえた賞ではないのかという疑念が私にはあるが、これを論ずる前に、今回の推薦者が安倍首相であった点について、ふれなければならない。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

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