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スタジオライフ『なのはな』開幕

現実と空想の世界を行き来して見いだす糸口

桝郷春美 ルポライター


拡大『なのはな』Kチーム公演から=Studio Life 提供

 スタジオライフの舞台『なのはな』が、2月27日に東京芸術劇場シアターウエストで開幕した(3月10日まで、4月12・13日大阪・ABCホール)。少女漫画家の萩尾望都さんが、漫画雑誌『flowers』に発表した短編漫画『なのはな』を、萩尾さん作品の舞台化に定評がある男優劇団スタジオライフが上演している。

悲痛な現実、心のベクトルを希望へと向ける力

 原作の漫画を萩尾さんが発表したのは、東日本大震災と同年の2011年8月のこと。東京電力福島第一原子力発電所の事故により、多くの人の運命が変わってしまったことに心を痛め、想いを寄せて作品を描いた。それを大震災・原発事故から8年が経とうとする2019年の早春に、スタジオライフが舞台化した。小学6年生の女の子と家族が、津波で祖母が行方不明のままの喪失感を抱えながら、やがて“なのはな”に希望を見いだしていく。そんな未来へ向かう物語として、原作に忠実に立ち上がっている。

 筆者は、東日本大震災が起きた後、2012年~14年に福島県沿岸部に通っていた。現地に身を置き、何をどう伝えていいのか、とことん悩んだ時期がある。そんな経験があるからこそ、この作品に興味を抱いた。萩尾さんが東日本大震災から間もない時期に発表した漫画を、2019年の今、劇団スタジオライフが上演することに。これまで、大震災や原発事故をテーマにした多くの作品が世に出た。しかしピークは過ぎ、今では話題に上ること自体が少なくなっている。そんな中で、どんな表現が繰り広げられるのか、と。

 実際に鑑賞した印象としては、時間の経過があるからこそ、ファンタジーの力が生かされていると感じた。とりわけ、現実と空想の世界を行き来する見せ方が特徴的だ。だからこそ、悲痛な現実に直面する中でも想像力を広げて、心のベクトルを希望の方へと向ける力がある作品に仕上がっている。

 スタジオライフは男優劇団なので、男性が女性役も演じる。そこで際立つのが、その感情表現の繊細さだ。感情は人に共通してあるもの。性別の枠を外すことで、より克明に浮かび上がるものがある。今回の舞台は、特にそうだ。家族が互いの心情を汲み、思いやる様が、じんわりと伝わってくる。

1時間に凝縮して見せる舞台

拡大『なのはな』Kチーム公演から=Studio Life 提供

 舞台版『なのはな』は、24ページの短編漫画を1時間に凝縮して見せている。舞台セットは、白いドア枠と、四角い椅子だけという極めてシンプルなスタイル。主人公の小学6年生の少女、ナホが空想の世界に行くと、背景に映像が映し出される。

 本作品は2つのチームによるダブルキャストで上演され、初日の2月27日はK(クークラ)チームだった。松本慎也さんが演じる主人公のナホからは、大好きなばーちゃんがいなくなって、寂しさをぐっとこらえる少女の、我慢という感情の輪郭がくっきりと浮かび上がるようだった。

 家族5人がそれぞれ、普段は押し殺している悲しみがあるのだが、それは必ずしも、あからさまに沈んだ状態に限らず、むしろ明るく振る舞うほうが余計に伝わる場合がある。倉本徹さん演じるじーちゃんの立ち居振る舞いから、そんなことを想起した。

 全体的に印象的だったのは、現実と空想が交錯する見せ方について。ナホが学校や家にいる現実世界のシーンと、白いドア枠が境界となって、そこから西洋人の女の子が現れてばーちゃんを連れてくる空想の世界とが、物語の中でないまぜになっている。現実と空想の世界が別物ではなく、ひとつながりに感じられたのは、周囲の景色は変わってもナホの状態が変わらないからだ。

★原作・萩尾望都&演出・倉田淳のインタビューはこちら

◆公演情報◆
Studio Life『なのはな』
2019年2月27日(水)~3月10日(日) 東京・東京芸術劇場シアターウエスト
2019年4月12日(金)~4月13日(土) 大阪・ABCホール
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:萩尾望都
脚本・演出:倉田淳
[出演]
船戸慎士、仲原裕之、関戸博一、松本慎也、宇佐見輝、若林健吾、千葉健玖、牛島祥太、伊藤清之、鈴木宏明/明石隼汰(客演)/倉本徹、藤原啓児

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筆者

桝郷春美

桝郷春美(ますごう・はるみ) ルポライター

福井県小浜市出身、京都市在住。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当後、フリーランスとして雑誌やウェブサイトに執筆。社会と表現の関わりを軸に、ドキュメンタリー映画、美術、舞台などジャンルを問わず、人物インタビューや現地取材を行う。

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