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続・必見!『偉大なるアンバーソン家の人々』

バロック嗜好、<噂>の活用など

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

『偉大なるアンバーソン家の人々』拡大『偉大なるアンバーソン家の人々』https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambersons-lobby-card-6.jpg

 前稿で述べた、『偉大なるアンバーソン家の人々』におけるジョージ/ティム・ホルトをめぐる因果応報のモチーフは、ウェルズのナレーションと連動するかたちで、ジョージについての悪評を口々に言いあう町の人々の顔のアップを白バックのローアングルであおる、ウェルズならではのバロック的な仰角ショットによっても映像化される。

 そしてそれに限らず、ウェルズの作家的刻印である様々な仰角ショット――たとえばジョージとルーシー/アン・バクスターの乗った二輪馬車の走行をローアングルからあおる映像など――は、本作でも画面を圧する強度を放つ。とりわけ、大広間の場面でのそれは、しばしば天井やシャンデリアが画面に大きく映り込み、その空間の壮麗さを強烈に印象づけるが、これが馬車の走行シーンとともに、ジョン・フォードの影響を強く受けた撮影法であることは以前にも述べた(「必見! ナチ残党狩りを描くオーソン・ウェルズの『謎のストレンジャー』(下)――ヒッチコック映画との共通点、巨匠ジョン・フォードの影響など」2014・01・17)。

 本作における、そうした室内シーンでとりわけ目を奪うのが、前半の大がかりな舞踏会のシーンでの、連れ立って歩くユジーンとルーシーを背後から延々とフォローする前進移動の長回しショットである。撮影監督のスタンリー・コルテスは、そのシーンについてこう語っている――「部屋と部屋を隔てる壁が視界の外にあるチェーンによって引き上げられ、オーソンの自在な〔クレーン・〕キャメラがまるで魔法のように空間を通過する、流れるような映像が作り出された」(バーバラ・リーミング『オーソン・ウェルズ偽自伝』、宮本高晴・訳、文藝春秋、1991)。まったくもって、狂気じみた撮影の仕掛けである。

 あるいは、アンバーソン邸の1階でのイザベル/ドロレス・コステロとジャック叔父/レイ・コリンズの会話シーン。カメラがそこで不意に縦方向のパンで上方を見上げ、二人の話を階段のバルコニー状の踊り場で盗み聞きしているジョージをとらえ、カメラがさらに上をあおぐと、ファニー叔母/アグネス・ムーアヘッドがそのまた上の階段の踊り場でイザベルを監視している、という、ウェルズ的バロッキスムが全開した空間描写の凄さ! つまり、ここで邸が3階建てであることがわかるのだが、その吹き抜けになった空間の予想外の高さが、快い驚きをもたらすわけだ(こうしたウェルズ的バロッキスムを特徴づけるものとして、仰角ショットのほかに奥行きの深い深焦点〔ディープフォーカス〕レンズ、空間を拡張させ歪曲させる広角レンズの使用、そして光と影のコントラストを効かせた明暗法があげられる)。

 さらに前述の、ジョージとルーシーが二輪馬車で町を行くシーンや、二人が街並みに沿ったポーチを歩くシーンも、緊張感が持続するローアングル中心の息の長い映像ゆえ、忘れられない(最近の“スローシネマ”における長回しには、こうした緊張感が欠けている場合がしばしばだ)。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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