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吉原光夫インタビュー/上

ミュージカル『レ・ミゼラブル』、5度目の出演へ

真名子陽子 ライター、エディター


拡大吉原光夫=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

 ミュージカル『レ・ミゼラブル』に5度目の出演となる吉原光夫に話を聞いた。原作はヴィクトル・ユゴーが自身の体験を基に、19世紀初頭のフランスの社会情勢や民衆の生活を克明に描いた大河小説で、原作の持つ「無知と貧困」「愛と信念」「革命と正義」「誇りと尊厳」といったエッセンスを注ぎ込んだミュージカルである。

 日本初演は1987年で、以降30年以上にわたって愛され、2017年には上演回数が3100回を超えた。2011年に最年少の32歳でジャン・バルジャンを、新演出となった2013年、15年、17年は、ジャン・バルジャンとジャベールの二役を演じた吉原。そして今回はジャン・バルジャンのみで5度目の出演を果たす。

 『レ・ミゼラブル』への思いやその作品性、ジャン・バルジャンとジャベールの役について、そして自身の演劇への取り組み方など、つい聞き込んでしまう話しぶりで“吉原哲学”を語ってくれた。

またあの世界を見たくなる

――『レ・ミゼラブル』(=レミゼ)へは、今回5度目の出演です。毎回これが最後だと思って出演しているとのこと。今の率直なお気持ちを聞かせてください。

 それは決して嘘ではなく、同じ人が同じ役をずっとやるのはどうなのかなと思ったりするんです。若い方がたくさん出てきていますし、代謝のいい演劇界であった方が良いんじゃないかと。それにレミゼで二役やるというのはすごくヘビーで、全公演が終わったときに「もう、やりたくない」と思うんですよね。でも新たにお話をいただくと、その思いが変わっているんです。あの世界に自分がいなくなってしまうんだ……という超役者っぽい気持ちが出てきます。『レ・ミゼラブル』という存在は自分にとってすごく大きいので、またあの世界を見たくなるんです。

――出演された方がよく中毒性がある作品だと言われています。

 そうですね。前に『レ・ミゼラブル』に出ている役者と話した時に、みんな同じ言葉が当てはまったんです。なぜか『レ・ミゼラブル』は修行っぽくなるよねと。それは悪い意味ではなくて、他の作品は明るくポップで気持ちを豊かに劇場に向かったりお芝居ができたりするんですが、なぜかレミゼはすごくストイックに、言葉をちょっと大きく言うと、狂ったように取り組む感じがあるんです。それがレミゼの魅力なんじゃないかなと話をした時に、みんながわかる!となってね。いろんなカンパニーを経験しているけれど、レミゼだけは毛色が違うんです。レミゼに出た人が他の作品に出ているのを観ると印象が変わっていたり、反対に印象が良くないなと思っていた人がレミゼに出て、「あれ?別の人格?」と思ったり。そのくらい魅力というか影響力がある作品なんです。それを中毒性というのかはわからないですけどね。

――なるほど。

 自分の人間性と照らし合わせて、人として成長しようとする感覚かな。みんながジャン・バルジャンを疑似体験しているんだと思います。役者自身がこの作品をやることによって、新しくあろうとしたり、変わろうとしたりするのかなと思います。今こうやって話していて解けたんですけど、もしかしたら俺もそうなのかなと思いました。それはバルジャンの人生と同じようにすごく厳しいことなので、やっていて嫌になっちゃいますけどね(笑)。

――この世界にいたいという思いと嫌になってしまう思いが交錯するんですね。

 『レ・ミゼラブル』だけが特殊なわけではないんですけどね。1月まで出演していた『マリー・アントワネット』然り、小劇場でやらせていただくストレートプレイ然り……。ミュージカル作品である『マリー・アントワネット』は音楽のうねりがあって、小劇場のストレートプレイの作品は、役や作品のストーリー性にうねりがあるんです。でも、『レ・ミゼラブル』はその両方のうねりがあるんです。その作品に出るというのは役者冥利に尽きますし、ずっとそこに浸っていたいと思うんです。それは『レ・ミゼラブル』だけではなく、良い作品であればやっぱりずっとやっていたいと思うものなんじゃないかなと。役は一人が牛耳るもんじゃないと言いながら、牛耳りたくなる気持ちもわかるんですよね。

音楽が崩れることを絶対的に許さなかった

拡大吉原光夫=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

――前回2017年の公演では音楽に集中していたとおっしゃっていました。

 この作品は音楽がすべてなんです。音程からすべて計算されて作られているので、本当に音楽がすべて。バイオリンもトランペットなどの管楽器も、心理や環境、時代やその人の影と光、すべての構成を表現しているので、音楽をしっかりやっているだけで見えてくるんです。作曲をしたシェーンベルク(クロード=ミッシェル・シェーンベルク)がいらっしゃったときに、音楽が崩れることを絶対的に許さなかったんですけど、そこに理由があると思っています。だから今でもキャメロン・マッキントッシュ率いるカンパニーが厳しいオーディションをしているのも、一度手を離すと大変なことになることを経験してきているからなんだと思いますね。

――大変なことになる?

 自分も演出をやっているのでわかるんですけど、手綱がないとダメな役者さんがいらっしゃるんです。自分の好きなようにやることがいいと思っていて、でもそれがマイナスに働いて暴走している役者を何人も見てきているんです。役者は自分のことを見られないですからね。そういう意味でも『レ・ミゼラブル』の中に、手綱を引いて抑圧された世界にあの美しさがあるということを、キャメロン・マッキントッシュカンパニーはわかっているんだと思います。それって超面倒くさいんですけどね(笑)、オーディションも長いですし。でも、それぐらいシビアに作品を保とうとしているんだと感じるんです。もし、自分が作った作品を海外で上演するとなったら何度も行きますし、通訳も連れて「それは違う!」って言う気がするんです。それが作品に対する愛情なんじゃないかなと思いますね。

◆公演情報◆
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
東京:2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
※プレビュー公演:2019年4月15日(月)~4月18日(木)
名古屋:2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
大阪:2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
福岡:2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
北海道:2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式ホームページ
[クリエイティヴ]
作:アラン・ブーブリル クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子
訳詞:岩谷時子
[キャスト]
ジャン・バルジャン:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀
ジャベール:川口竜也、上原理生、伊礼彼方
ファンテーヌ:知念里奈、濱田めぐみ、二宮愛
エポニーヌ:昆夏美、唯月ふうか、屋比久知奈
マリウス:海宝直人、内藤大希、三浦宏規
コゼット:生田絵梨花、小南満佑子、熊谷彩春
テナルディエ:駒田一、橋本じゅん、KENTARO、斎藤司
マダム・テナルディエ:森公美子、鈴木ほのか、朴璐美
アンジョルラス:相葉裕樹、上山竜治、小野田龍之介
ほか
〈吉原光夫プロフィル〉
1999年、日本工学院専門学校演劇科を卒業し、劇団四季研究所に入所。『ライオンキング』や『ジーザス・クライスト=スーパースター』『美女と野獣』など多くの作品に出演するも2007年に退団。2009年にArtist Campany響人を立ち上げ、出演、演出を手がける。最近の主な出演作は、『マリー・アントワネット』『ファンホーム』『The Beauty Queen of Leenane』『手紙』など。演出作品は、響人以外で『DAY ZERO』がある。また映画『未来のミライ』では声優を務めた。
吉原光夫公式ホームページ
公式ツイッター

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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