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成河が自らの代表作で新役に挑む/下

第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞、『BLUE/ORANGE』を新配役で上演

大原薫 演劇ライター

成河が自らの代表作で新役に挑む/上

演劇を見慣れない人にも劇場に足を運んで欲しい

拡大成河=柴 仁人撮影

――今日本で上演されている作品では、成河さんがおっしゃるように自分の問題として考えさせられる演劇もあれば、一方で、エンターテインメントとしてただ楽しく美しいというタイプのものもあると思うんです。

 でもね、僕は本来はそれらは同じはずだと思うんです。役に立たない、ひたすらきれいなだけのものなんて誰も作っていないですよ。そんなものには、誰も心を打たれませんから。ただ、まだ演劇を観たことがない人にすそ野を広げたくて、装飾の部分だけが取り沙汰されてしまうのはもったいないなと思いますね。実際に演劇を観た人は「そうじゃないの、この作品を見たら、自分の問題として考えられるのよ」と個人個人で受け取っているものがあるのに、観ていない人には装飾の部分しか伝わっていかない。これは残念だなと思いますね。

――新しく演劇を観ようと思う層がなかなか広がっていかない今、成河さんはご自身のブログで「『普段演劇を見慣れないひとにも劇場に足を運んで欲しい』と心から思い、それを実現するために。しがない俳優の立場から、小さな一歩を」と発信されています。今回の公演でご自身のメールマガジンの読者に呼び掛けて寄付を募り、演劇入門者用の割引チケット(一人カルチベートチケット)を作るという試みをされていますね。

 今、カルチベートチケットをやりながらブルースを演じているというのが、自分にとってとてもよかった。「いやいや、待て待て。自分が正義の使者になったつもりでいるんじゃないよ」と。ただ、こうしてインタビューでお話ししたりして、制作者やプロデューサー、俳優仲間たちに声が伝播していったらいいなと言う希望はあります。たとえ話をすると、一時期中国系の「爆買い」が話題になったじゃないですか。爆買いの行列を見て「うわぁ」と思って買い物を控えたことがある人もいると思う。今、大手の劇場で何が起こっているかというと、これと同じ現象なんです。「チケットが取れない、取れない」と言われているから怖くなって申し込めるだけ申し込んで、結果として20枚30枚40枚取れてしまっている人がいる。一方で「なんだかチケットが取れないらしいし、取り方もよくわからないから、観なくていいや」と思って、敬遠してしまう人もいるんです。今はそういう状態で、囲い込みによって観客が固定化されてしまっているんじゃないか。もちろん、チケットを取った人が悪いわけでは全然ないです。これは売り手側がそうならないように工夫すべきだし、チケットを売るシステムもやがては成熟していくと思う。でも、大手のシステムが変わるまでには時間がかかりますよね。じゃあ今、「演劇を見慣れない人に劇場に足を運んでもらう」ためにはどうしたらいいかと言って考えたのが、皆さんの寄付を募って、演劇初心者のための割引チケットを作ろうということなんです。言い方を間違えると、今まで支えてきてくださった方や応援してくださっている方々を傷つけることになるので慎重にならないといけないけれど、逆に言えば、そういう方たちの力を能動的にお借りして何かができないかなというのが事の始まりです。

◆公演情報◆
2019年3月29日(金)~4月28日(日) 東京・DDD青山クロスシアター
公式ホームページ
公式ツイッター
[スタッフ]
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
[出演]
成河 千葉哲也 章平
〈成河プロフィル〉
東京都出身。大学時代より演劇を始める。近年の主な舞台出演作品は、『スリル・ミー』『Fully Committed』『黒蜥蜴』『人間風車』『子午線の祀り』『髑髏城の七人Season花』『わたしは真悟』『エリザベート』『グランドホテル』『スポケーンの左手』など。6月からは、『エリザベート』への出演が決まっている。2008(平成20)年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。
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公式ツイッター

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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