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昆夏美、『レ・ミゼラブル』4度目の出演へ

エポニーヌはこうであるべきだという概念は捨てる

真名子陽子 ライター、エディター


拡大昆夏美=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

 ミュージカル『レ・ミゼラブル』にエポニーヌ役で4度目の出演となる昆夏美の取材会が行われた。

 原作はヴィクトル・ユゴーが自身の体験を基に、19世紀初頭のフランスの社会情勢や民衆の生活を克明に描いた大河小説で、原作の持つ「無知と貧困」「愛と信念」「革命と正義」「誇りと尊厳」といったエッセンスを注ぎ込んだミュージカルだ。

 憧れていたエポニーヌ役について、前回の公演で初めて気づいたことやマリウスとの関係性、役作りなど、何度も演じているからこそわかる昆ならではのエポニーヌ像を語ってくれた。

エポニーヌ役にゴールは決してない

拡大昆夏美=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

記者:今回4度目の出演ですが、今の率直なお気持ちはいかがですか?

昆:2013年に初めて出演させていただいた時は、こんなに挑戦させていただけると思っていなかったので、2013年、2015年、2017年と毎公演、その時出せるすべてを出してきて良かったと思っています。

記者:エポニーヌ役の魅力は?

昆:ミュージカル女優を志すようになって、演じてみたい役のひとつがエポニーヌでした。毎回必死にやっているんですけど、やればやるほど前回の公演の時には感じられなかった感覚が出てくるんです。そういったところがこの作品の魅力だと思いますし、ゴールは決してないんだなと思っています。

記者:今回の公演での課題や挑戦したいことはありますか?

昆:今までとは少し違う感情で歌って欲しいといった細かな演出の変化が、毎回たくさんあります。前回と同じようにすればいいというのではなく、エポニーヌはこうであるべきだという概念を捨てて、お客さまにも変化を感じていただけるように演じられたらいいなと思っています。

記者:新たなエポニーヌにワクワクという感じでしょうか?

昆:そうですね。1番びっくりしたのは、エポニーヌとコゼット役の中で私が1番年上という……(笑)。2013年に初めて出演させていただいた時は1番年下だったんです、年齢もキャリアも。今回4度目で、“エポコゼ”と言われる中で1番先輩になりました。でも、初出演の方の、何の色もついていないエポニーヌが入ってくることによって、自分も気づかされることがたくさんありますので、そういう意味でもワクワクしています。

悲劇のヒロインにならないで欲しい

拡大昆夏美=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

記者:エポニーヌは報われなくてかわいそうといつも思います。これまで演じられて、どういう風に捉えていますか?

昆:2017年に演じた時に一番心に残ったのは、「恵みの雨」でこんなに幸せな気持ちで死ねるんだと、それまでに感じたことのない満たされた気持ちになりました。あの時の昇天していく感覚を、新たな発見として得られたことはすごく大きかったです。彼女の幸せの頂点は「恵みの雨」だと思うんです。あのシーンは“お芝居”なんです。演出の方も音楽監督も、シェーンベルクが作ったメロディーにエポニーヌの感情がすべてのっているから、お芝居といえども崩さないで欲しいと言われています。シェーンベルクが作った楽曲は、シーンごとのお芝居と感覚が相まって作られています。『レ・ミゼラブル』に出演することを夢見ていた頃は、「恵みの雨」の重要性を理解していなかったのですが、演じていくにあたって、お芝居として一番大事にしたいシーンだということに気づきました。

記者:「恵みの雨」ですごく幸せな気持ちでいっぱいになるというのは、好きな人の腕の中で死ねるからですか?

昆:マリウスの腕の中にいる自分なんて想像することすらできなかったのに、その自分が夢見ていたこと、絶対にありえないと思っていたことが死ぬ時に手に入る。最後の最後に、彼女のほんの少しの願い、ずっと求めていた幸福感に、命が消えると同時に初めて触れることができたという、とても深いシーンだと思います。

記者:マリウスのエポニーヌに対する気持ちはわかっているけれど、やはり彼の腕の中で死ぬことができるのは幸せなんですね。

昆:そうですね。エポニーヌの1番の幸せは、マリウスに幸せになって欲しいということだけなんです。自分が幸せになることは諦めているというか……。マリウスと両思いになりたいという次元ではないと思っています。求めていた彼の温もりを、最後の最後に手に入れられたのは幸せだったと思います。

記者:それまではやはり苦しいとか辛いという気持ちが勝っているんですか?

昆:演出家の方に、エポニーヌを演じている役者自身が辛いとか苦しいという感情になってもいいけれど、それをお客さまの前で出してはいけないと言われています。悲しいからといって悲しい表情をエポニーヌは絶対にしないからと。常に仮面をかぶっている子だから、悲劇のヒロインにならないで欲しいと毎回言われます。「オン・マイ・オウン」を歌うまでのエポニーヌのプロセスも歌詞もドラマティックな音楽も、ちょっと感傷的になりがちなんですが、でも絶対に自分を哀れんではいけない。ただ事実を淡々と述べるように歌うのが「オン・マイ・オウン」で、それはエポニーヌを演じるうえで重要だと思っています。ここで悲劇のヒロインになってしまうと「恵みの雨」の効果がなくなってしまうんです。

記者:とても辛い境遇で生きてきたのに、なぜそんな聖母マリアみたいな感覚になれるんでしょう?

昆:現実は変わらないということをわかっているんだと思います。貧しく自分の思い通りにいかない世界で生きてきて、自由を願うけれどいくら願っても現実は変わらない。だから、願うだけならいいでしょと「オン・マイ・オウン」を歌ったのかもしれない。マリウスはエポニーヌを好きじゃない、そのことをエポニーヌはわかっていると思って私は演じています。自分のことを好きになって欲しいけれど、叶わないから彼の幸せを願うだけ。でも好きでいさせて欲しい。諦めと願望が入り交じったような感情なのではないでしょうか。

「オン・マイ・オウン」を歌いたい! 帝劇に出たい!

拡大昆夏美=水本克美〈桑島写真スタジオ〉撮影

記者:エポニーヌはやりたい役のひとつだったということですが、やはり人物像に憧れがあったのですか?

昆:いえ、中学生でしたので、作品について語るとか、共感するということはまだまだなく、エポニーヌをやりたい、「オン・マイ・オウン」を歌いたい、シンプルにそういう思いだけでした。ミュージカルファンだった頃に好きだった方がエポニーヌをされていたので、私も「オン・マイ・オウン」を歌いたい! 帝劇に出たい! という単純なものでした(笑)。でも、絶対にエポニーヌ役を!ではなく、木の役でもいい、何でもいいからレミゼに出たいと家族に言ってました。

記者:普段ミュージカルは観ないけど『レ・ミゼラブル』は観るという方がたくさんいます。キャストから見た『レ・ミゼラブル』の魅力は何でしょう?

昆:すごくざっくりとした言い方になってしまいますが、やはり音楽が素晴らしいですし、いろいろな見方ができる作品じゃないかと思います。だから老若男女を問わず愛される作品なんだと思います。ジャン・バルジャンというひとりの男の成長、変化の物語があったり、彼を追うことによって葛藤するジャベールだったり、マリウスやエポニーヌ、コゼットにもいろんな物語がありますよね。誰の視線で観るかによって感じ方も変わってくる作品なので、何回も観たいと思いますし、複数キャストなどで個性が全く違う方がやるとまた作品の色も変わります。

 でも最初は、『レ・ミゼラブル』を観てみたいという気持ちだけでいいと思います。愛だったり赦(ゆる)しだったり、いろんなメッセージを受け取っていただくことで明日からの活力になればいいなと思います。そして何度も観てくださっている方は、いろんな楽曲を好きになってくださったり、いろんなキャストの組み合わせで観てみたいと思っていただける。そんな風に幅広い方々に愛されて、そして、たくさんの先輩方によって『レ・ミゼラブル』の歴史が紡がれているんだと思います。

記者:最後に読者の方へメッセージをお願いします。

昆:『レ・ミゼラブル』は30年以上日本で上演されていますけれど、1つとして同じ公演はないですし、同じキャストもないですし、同じ演出もありません。2019年も新たなキャストの方々と一緒に新しい『レ・ミゼラブル』をお届けできると思いますし、お届けできるようにしたいとキャストみんな思っていると思います。この歴史あるミュージカルをぜひ劇場で感じていただけたらうれしいです。お待ちしております。

◆公演情報◆
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
東京:2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
※プレビュー公演:2019年4月15日(月)~4月18日(木)
名古屋:2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
大阪:2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
福岡:2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
北海道:2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式ホームページ
[クリエイティヴ]
作:アラン・ブーブリル クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子
訳詞:岩谷時子
[キャスト]
ジャン・バルジャン:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀
ジャベール:川口竜也、上原理生、伊礼彼方
ファンテーヌ:知念里奈、濱田めぐみ、二宮愛
エポニーヌ:昆夏美、唯月ふうか、屋比久知奈
マリウス:海宝直人、内藤大希、三浦宏規
コゼット:生田絵梨花、小南満佑子、熊谷彩春
テナルディエ:駒田一、橋本じゅん、KENTARO、斎藤司
マダム・テナルディエ:森公美子、鈴木ほのか、朴璐美
アンジョルラス:相葉裕樹、上山竜治、小野田龍之介
ほか

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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