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高橋惠子、舞台『まほろば』に出演

“時代が変わっても変わらないものがある”ということを見つけたい

真名子陽子 ライター、エディター


拡大高橋惠子=岸隆子撮影

 2008年に初演され、第53回岸田國士戯曲賞を受賞した蓬莱竜太作『まほろば』が、演出に劇団チョコレートケーキの日澤雄介を迎え、新たに上演される。テンポの良い軽妙な女たちの会話の深層に、「妊娠」「家」「血脈」というテーマを持つ本作。初演は長女・ミドリの視点で描かれていたが、今作は母・ヒロコを中心に4世代にわたる「女性の在り方」に焦点をあてている。旧世代の象徴であるヒロコの心象が徐々に変化し、子どもたちの生き方を受け入れ、また自分も変わろうとする女のたくましさがテーマとなっている。

 キャストは、母・ヒロコを高橋惠子、長女・ミドリを初のストレートプレイとなる早霧せいな、次女・キョウコは中村ゆり、そして初演でヒロコを演じた三田和代が祖母・タマエを演じる。

 ヒロコ役の高橋惠子の取材会が行われ、運命的な出会いと語るこの作品への思いを語ってくれた。

カッコつけずに本音でお稽古したい

拡大高橋惠子=岸隆子撮影

記者:まずは台本を読まれた感想を伺えますでしょうか。

高橋:家族同士の遠慮のないやりとりがぽんぽんと繰り広げられ、スピード感があります。長崎弁を話しますので、自分のものになるようにお稽古していきたいなと思っています。出演者は全員女性で初めて共演する方ばかりですが、家族同士のやりとりを色濃く出さないとおもしろくないと思いましたので、稽古をしていく中で皆さんとの仲を深めていきたいと思います。でも先日、リーディングのお稽古の時にみんなで食事に行きまして、ぐっと距離が縮みました。はじめは皆さん緊張していたのですが、おかげで大分ほぐれまして家族らしくなってきたなと感じています。演じ手としては難しい役どころで、いろいろなハードルを乗り越えないといけませんが、とても良い作品ですし集中して稽古に励みたいと思います。

記者:どういったところが難しいのでしょうか。

高橋:たった1日のお話なのですが、子どもたちが次から次へといろんな問題を持ち込んできます。子どもに問題が起きた時、親としてどう反応してどう受け止めていくのか……。演じますヒロコは、伝統を重んじて本家を守っていきたい、受け継がせたいという思いが強いのですが、その思いを押し通すだけではなく一人ひとりの思いを受け止めるよう考えが変わっていきます。セリフに“神様のおぼしめし”とあるのですが、命が誕生することは人間の力だけではどうすることもできない。そういうことに対する受け止め方ですね。お稽古を重ねていく中で生きた家族同士のやりとりになるようにしたいと思います。

 舞台のお稽古はいかに恥をかいて、自分を解放していくかが大切です。カッコつけてなんていられません。良いところも悪いところもさらけ出すという気持ちがないとお客さまにも伝わらないと思います。本当の肉親同士のやりとりに見えないといけませんし、表面上のやり取りだけで終わりたくない作品です。カッコつけずに本音でお稽古したいですね。

本人が真面目にやらないとコミカルさは伝わらない

拡大高橋惠子=岸隆子撮影

記者:ヒロコさんはどんどんヒートアップして、なりふり構わないところがすごくコミカルに見えます。

高橋:笑えますよね! そのヒートアップの度合いが上がらないとお客さまもつまらないと、演出の日澤さんもおっしゃっていました。コミカルさは演じている本人が真面目にやらないと伝わらないんです。笑わせようと思った瞬間、お客さまは引いてしまいます。本気だからこそ、馬鹿だね、おかしいねと思ってもらえると思うんです。言い過ぎと感じるほど無茶なことをなぜ言うのか、そこをしっかりと押さえて、ヒロコにとってはすべて真実なんだと思って言わないといけないと思います。

記者:ヒロコを中心とした新演出になるそうですが、そのことについてどのように捉えていますか?

高橋:ヒロコは本家を守ってきた、家の中心にいる人です。そこへ家族がそれぞれいろんな事情を抱えて帰ってきます。1世代上の義理の母・タマエさんとヒロコはその家に長い間住んで守ってきましたが、お義母さんはヒロコさんよりも状況を達観しています。お義母さんはいろんなことを乗り越えて歳を重ねてこられているので、こうでなければいけないというしがらみからも解放されて、そういうこともあっていいんじゃないの?と言える視点を持っています。でもヒロコは今まさに、本家を守らなければいけないという問題を抱えていて、一方でその思いが裏切られる問題が次から次へと舞い込んできます。その状況を前にして、じゃあ何を大事にしていくのか?それが見えた時、ヒロコは前へ一歩踏み出します。それはお義母さまが理解して後押ししてくれるから。ヒロコについてはそんな風に捉えています。

 今回は平成が終わるころの上演です。時代の変わり目に、時代が変わっても変わらないものがあるということを演じながら見つけたいですし、ご覧になる方にも何かが伝わるんじゃないか、見つけていただけるんじゃないかと思っています。新しい年号に変わり、今までの価値観から新たなものへ大きく変わっていく時かなと思います。でも、命を生み出すことは変わらない。時代が変わったからといって妊娠して3日で生まれますとはならないですよね。どんなに時代が変わってもそれは変わりません。また、作品で描かれている親や姉妹間での葛藤も、個人差はありますが、どの時代も変わらない気がします。「まほろば」には桃源郷や素晴らしい場所という意味があります。そういった意味持つ言葉がタイトルについている作品に、平成最後に出られることをうれしく思います。

日本人の良さを見直して次の世代に伝えていきたい

拡大高橋惠子=岸隆子撮影

記者:ホームドラマとは違う雰囲気がありますよね。

高橋:そうですね。とても大きな視点で命というものを捉えている作品だと思います。次の世代、次の世代へと命を繋いでいきますが、それは人間の意思だけではできないんだと改めて感じます。“神様のおぼしめし”なんですよね。最近、聞かなくなりましたが、そういうところにまで想いを運べる作品だと思います。単なるホームドラマではありませんが、堅苦しい作品でもありません。たくさん笑えますし、面白い作品になると思います。

記者:女性だけの出演で男性が出てこないですね。

高橋:近所の女の子で小学生のマオちゃんがお義母さんに、どうして女は神輿を担げないの?と聞くんです。男性にしかできないこと、女性はやってはいけませんということが特に神事に関してはあります。それは作品の中で説明しているのですが、その他にも、男の人の役割、女の人の役割というものがこの作品を通して見えてくるのではないかと思います。どちらもいなければ命は生まれてこないですから。笑ったり、ホロリとしながら、ふと立ち返って考えることができると思います。

記者:座る場所やお箸を置く順番の決まりなど……。

高橋:そうですね。それは決して悪いことじゃないと思います。順番があるのはスムーズに事が運ぶからだと思うんですね。順番がなく我先にとなるとぶつかり合ってしまいます。順番を決めたほうが争いにならない。つまらないことで争わない、円滑に運ぶための知恵なんだと思います。

記者:なるほど。

高橋:男性も女性も五分五分、同じように力を持って立場も一緒というのはどうなのかなと思うようになってきました。相手が55%、自分が45%。自分の方がちょっと足らないくらいが円滑に動く。五分五分だと動かずにぴたっと止まってしまう。最近そういうことを聞きまして、とても良いなと感じました。相手の方がちょっと上でいいと思うんです。それを同じように相手も自分に対して思ってくれたら、とてもうまくいくだろうと思います。順番を決めることも古いという言葉では片付けられない、やはり知恵として守ってきたものを見直してもいいのかなと思うようになりました。そんな時に、この『まほろば』と言うタイトルの作品に出会い、日本人の知恵や“まほろば”という言葉が使われていた時代からのメッセージを、忘れないでと言われているような気がしています。60代になりましたが、日本人の良さをもう一度見直して、次の世代に伝えていきたいですね。私にとって運命的な出会いの作品。いい時期に出会えたと思います。

――高橋さんにとって“まほろば”はどこでしょうか?

高橋:若い頃、友達の家でも我が家のように寛いでいたので、「行ったとこ我が家」というあだ名をつけられました(笑)。そう意味では、私がいる場所、“ここ”が“まほろば”です。

◆公演情報◆
舞台『まほろば』
東京:2019年4月5日(金)~4月21日(日) 東京芸術劇場シアターイースト
大阪:2019年4月23日(火)~4月24日(水) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式ホームページ
[スタッフ]
作:蓬莱竜太
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
[出演]
高橋惠子、早霧せいな、中村ゆり、生越千晴、安生悠璃菜/八代田悠花(Wキャスト)、三田和代

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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