2019年03月27日
NGT48の山口真帆さんがファンの男性二人に暴行された事件について第三者委員会の調査報告書が公表された。
事件の概要については今さらここで説明するのも煩雑であるので(皆さんだいたいのことは聞いたことあるでしょう)、まずは公表された報告書、およびその報告書を受けてのNGT運営の、この事件に対するコメント(報告書の前に書いてある)をお読みいただくのがいいと思う。事件がどのようなものであったのかも書いてある。ちょっと長いけどスラスラ読める。
一読してびっくりしたのは、暴行事件についての詳細だ。あらためて読んで震え上がった。
山口さんの告発以降、ファンの間でも当然大きな騒ぎになって、彼らとその一味を厳罰に処せという声が盛り上がったのは当然として、こういう告発事件につきものの揺り戻しみたいなのもきて「あれは実はそもそも事件と言えるようなものじゃない」「まほほん(←山口さんの愛称)は思い込み激しいから」というようなことが言われていたのだ。「だって犯人は逮捕はされたけど不起訴で釈放されてるじゃん、たいしたことなかったんだろ」みたいな。いやほんと、もっとひどいこと言ってるやついっぱいいたもん。#MeToo運動のバックラッシュはこんなところにも確実にやってくる。
そしたら、報告書を読んでみると、こめかみを押すようにして顔をつかまれるとか、玄関に押し入って押し倒そうとするとか、男の一人は向かいの部屋を借りてるとか、「なんだこれみんなホントのことかよ!」と驚愕した(第三者委員会は捜査権がないので事実認定には留保がつくわけだけど、運営会社のAKSはこの報告書を受け入れてその後の処置も決定しているので、今の時点でこの報告書に書かれたことを事実だと前提にして話を進める)。
そして、この事件に「関与したとされるメンバー」についても、関与があったと山口さんが発言するに至った経緯が書いてある。これもぜんぜん妄想とか幻覚とかではない。メンバーの名前を口に出しているのは男のほうである。その録音テープまであって、彼らの発言が生々しく再録されている。
で、AKSは、当該メンバーは男たちと顔見知りで劇場外でも言葉をかわすような仲(いわゆる、つながってる、ってやつ)であるが、今回の犯行について直接の関係は認定できないとして、「不問に付す」と言っている。
ここでファンとか野次馬とかがいっせいに「なんで不問やねん!」と火が点いた。
「メンバーをさっさと引きずり出してペナルティ課せ、なんなら解雇しろ」
と。
これもまた問題があって、そのメンバーが誰で、そのメンバーが何をやったか明らかにならないから、憶測で「犯人捜し」「犯人批判」が燃え上がっちゃっている。
今ネットで「メンバーはこんなことやってるにちがいない」と書かれてることって、たぶん真実の100倍ぐらい盛られてるし、メンバーの、ささいなツイッターの書き込みとかまでが「これが犯人の証拠だ!」とまことしやかに認定され、「ちがうなら証拠出せ!」とかいうことになっている。この構図は魔女狩りと同じ。……などと言うと、言った私も「お前は運営の犬」呼ばわりされそうである。ちがうー!って叫ぶとますます言われる。魔女狩りの魔女判定は、「体のホクロに針刺して、痛がらなかったら魔女」で、ずっと刺され続けてたらよくわかんなくなってきて痛いって声も出てこなくなり「はい魔女!」で一丁上がりという話を魔女裁判の本で読んだけど、責め立てるほうは善意の人悪意の人寄り集まってもうその流れを止められないという、まさにそういうことがネット上で繰り広げられていた。どうすんのこれ。
報告書を読むと、このあたりについては割と冷静に、あったことを書いてあるといった印象だ。冷静なだけに怖さも際立つのだが。他のメンバーの関わりについても書いてある。
私の読んだ感じだと、
・男たちは何人かのメンバーと知り合いであり→AKBグループの特徴として、握手会に頻繁に通えば顔と名前をおぼえてもらうぐらいは誰でもふつうに可能
・携帯だかLINEだかで連絡取れるような仲で→つながり、の線引きはここからだろう
・公演会場や握手会場の外でプライベートで会ったりしている→道で挨拶、とかではない
ここまでは別に犯罪行為ではない。AKB的には問題視されるとしても、このことだけで解雇はさせられないだろう。
男たちと、何人かのメンバーは、そういうつながりの仲であった。そして「家に行っちゃいなよー」「むりやり行っちゃえばなんとかなるよー」とか「あいつウザイんだよねー」的な会話をふつーにしていたんじゃなかろうか。このテの会話を日常的にしてる人たちっているじゃないですか。
息をするようにそういう会話で盛り上がるノリ。
だからといって、それが犯行を示唆とか教唆とか、そんな計画的なものではなさそうだ。計画できるような能力も感じられない。しかし場当たり的になんかやっちゃいそうという軽さ。
そのメンバーや男たちと、山口さんでは文化や教養がまるで別なんだろう。彼らがどこまでのことをしようとして山口さんの玄関に押し入ったかはわからないが(レイプまでしようとは思ってないと思う。ただしそれは彼らの頭の中にある「レイプ」。玄関に押し入って仲良くなったらセックスできるかも、ぐらいは思っていたかもしれない。……仲良くなれるかも、と思うことがすでに山口さんの文化と遠く隔たってるだろう)、文化の違う人間が力ずくでやってきたら恐怖以外の何物でもない。
不起訴処分になろうがなるまいが、男たちには恐怖しか感じない。アメリカでハロウィンの格好で家を訪問したら射殺された事件、あれを思い出した。あれはどっちも悪くない、不幸な事件で、今回の事件は明らかに男たちが悪いんだけど。でも悪いことしてる意識はないのだ。それってものすごく怖ろしい。山口さん、そりゃ死に物狂いで抵抗するよ。その後の告発も含めて。
ここで、この問題で頻出する「メンバーとファンとのつながり」について書きたい。
世間は、ここを誤解しているように思う。
なぜつながりたいのか。
「そりゃ、メンバーのことが好きだから、ちょっとでも近づきたいから」
と、ふつう思うでしょう。
そうじゃないんだ。この事件の男をはじめ
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