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舞台『BLUE/ORANGE』

人間とは、かくも一筋縄でいかない存在なのか

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大舞台『BLUE/ORANGE』囲み会見から

 3月29日、東京・DDD青山クロスシアターにて舞台『BLUE/ORANGE』が開幕した。「人種、狂気、ダーウィニズム適者生存のパワーゲームを描く物語」、英語台本の最初のページにはそう記されていたという。2000年にイギリスで初演され話題になった、劇作家ジョー・ペンホールの出世作だ。

 物語の舞台はロンドンの精神病院。境界性人格障害と診断された黒人の若者・クリストファー(章平)は28日間の治療期間を終え明日に退院を控えている。研修医のブルース(成河)はその病状に懸念を持ち、退院を延ばすべきだと主張するが、ベテラン医師のロバート(千葉哲也)はブルースの意見に耳を貸そうとしない。そこでブルースはロバートの前でクリストファーに「このオレンジの色は何色か?」と問う。クリスは「ブルーだ」と答えた……。

 日本での初演は2010年。クリストファー役に成河・ブルース役に千葉哲也、そして、ロバート役には2017年に亡くなった中嶋しゅうという配役で上演されている。成河はこのとき読売演劇大賞優秀男優賞を受賞した。

 それが今回は成河がブルース役、千葉哲也がロバート役と、それぞれ初演より年を重ねた役を演じ、クリストファー役には新たに章平を迎える。また、小川絵梨子が自身のたっての希望により新たに翻訳を手がけた。9年ぶり、満を持しての再演は果たしてどのようなものになるのだろう。まずは、初日前の囲み会見でのキャスト3名のコメントを紹介しよう。

・ブルース・フラハーティ役/成河
この作品は3人芝居の会話劇なので、ずっと舞台上でも稽古をしているような感覚です。目には見えないけれど、三つ巴の合戦のような関係性があって、公演によって今日はこの人、別の日にはこの人に共感、なんてこともあるかもしれません。客席のつくりが、はさみ舞台になっていて、すごく密な空間なので、お客さんが一番楽しめるんじゃないかな。

・ロバート・スミス役/千葉哲也
英語から日本語への翻訳ってすごく難しいんです。でも小川絵梨子さんの新訳は読んでいて分かりやすく、作品の根としてもある権力や人種差別は、日本でも通じるものがあります。難しい言葉も多いですが、お客さんにはそこだけに気を取られないように、その時の彼らの表情をしっかり感じてもらいたいです。

・クリストファー役/章平
成河さんと千葉さんは、僕が稽古の中でいろんなことを試したり、何をやっても成立させてくれるんです。お二人にはそんな絶大な信頼と安心感があります。また、はさみ舞台に実際に立ってみて、そこに“存在する力“を貰えたような、エネルギーを感じています。セリフの中でのお気に入りは「ブルーオレンジ」です!

ムズかしいことが面白く病みつきになる

拡大舞台『BLUE/ORANGE』

 劇場に入った瞬間、舞台をはさむ形の客席にまず戸惑った。つまりこれは「客席のあちら側の話ではない」ということなのか? 舞台上には長テーブルが一つだけ、両側に2脚の椅子。モノトーンな色彩の中で、透明な器に入っている3つのオレンジ(本物である)が映える。

 若者言葉の「ヤバいっしょ!」がクリストファーの口癖だが、終演後の私も思わず「これ、ヤバいっしょ!」と叫びたくなってしまった。演出の千葉哲也氏がプログラムのコメントで「ムズかしくとらえずに」とおっしゃっているが……いや、ムズかしいですよ、これ。でも、ムズかしいこと自体が不思議と面白く病みつきになりそうな作品である。

クリストファー役の章平、さすが白羽の矢

拡大舞台『BLUE/ORANGE』
 章平演じるクリストファーは、佇まいからしてまさにクリストファーだった。その野性味の中に心の闇を潜ませ、支離滅裂な態度で2人の医師を翻弄し続ける。世間と馴染めない異形の者としての存在感が圧倒的だ。成河がクリストファー役として彼を見出したことが再演の実現に繋がったというが、さすが白羽の矢を立てられるだけのことはある。

 ロバート(千葉)はブルースの師匠にあたり、酸いも甘いもかみ分けた老獪な医師である。硬軟取り混ぜてブルースを説得し思い通りにしようとする、その手練手管も鮮やかとしか言いようがない。ときに「この人、本当は素晴らしい人格者なのだ」と心から思えてしまう、その底知れぬ懐の深さが恐ろしい。

 そしてブルース(成河)。クリストファーのことを心から案じ、真っ直ぐに信念を貫こうとする誠実な医師である。……でも、何なのだろう、どこかイラっとさせられる。正義の味方のはずなのに何故かこの人は好きになれない気がする。その正体が終盤にかけて抉り出されていくのが不快でもあり痛快でもあるのは、彼こそが我々に最も近い「普通にいい人」だからなのかも知れない。

★成河さんのインタビューはこちら

◆公演情報◆
2019年3月29日(金)~4月28日(日) 東京・DDD青山クロスシアター
公式ホームページ
公式ツイッター
★アフタートークショー開催決定!
・4月7日(日)13:00公演後
・4月14日(日)13:00公演後
・4月21日(日)13:00公演後
登壇者/成河、千葉哲也、章平
※登壇者は変更になる可能性もございます。予めご了承ください。
[スタッフ]
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
[出演]
成河 千葉哲也 章平

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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