
「まんぷく」のヒロイン役・安藤サクラさんと長谷川博己さん
近ごろの若い人々は、お笑いの世界の言葉をよく日常会話に入れてくる。その一つに「出落ち」というのがあって、「結局、〇〇さんの出落ちだったんですよねー」などと言われて、わかるような、わからないような。
そんな私なのだが、最近、故あって深夜放送をよく聞いている。「山里亮太の不毛な議論」(TBSラジオ)がお気に入りだ。
常連リスナーの1人に、「アリゾナ州」在住という人がいる。最初にその人の投稿が読まれたとき、「アリゾナ州のラジオネーム」、そう言いながら山ちゃんは少し笑い、シャープな投稿を読み終えて「アリゾナ州って今、何時なんだろう。っていうか、アリゾナ州ってアメリカのどの辺なんだろう。なんか出落ちになっちゃったなー」と言っていた。
それで「出落ち」を理解した。登場の瞬間が、一番おもしろい。そんな感じなことを言うのね。やっと納得した。その体験を経て、今、私はこう思っている。
「まんぷく」って、安藤サクラの出落ちだったんだー。
「安藤サクラが朝ドラのヒロインに」と発表されたのが2018年1月末。その時から、強調されていたのは「幼い子どものママをヒロインに起用するのは初めてで、安藤は長女を連れて大阪に『単身赴任』する予定」ということだった。
安藤は俳優の柄本佑と結婚、17年6月に長女が生まれた。生まれた直後なのか直前なのか、NHK大阪は安藤にヒロインをオファーし、安藤もそれを引き受けた。そうして「初のママ」が「単身赴任」で撮影に臨むという形で、「まんぷく」は始まった。
「働く女性」という視点からは、頼む方も引き受けた方も、どちらにも勇気あることだったろう。だから安藤サクラという女優の「撮影時の状況」が話題となるのは、決して悪いことだとは思わない。
さらにいうなら、2019年4月スタートの「なつぞら」は「朝ドラ100作目」。「99作目」の「まんぷく」は、話題性においてどう考えても分が悪い。「初のママ」「単身赴任」を強調するという製作陣の戦略も、大いに理解できる。
だからこそ、そういう仕掛けの「まんぷく」が作品としてどうだったか。そこが勝負だと思いつつ見続けた。結論は、うーん、「出落ち」だった。